米軍に基地を提供することで日本は守られている。これは「集団的自衛権」の行使だが、日本は権利を得て守られるだけでもう一方を守るという義務を果たしていない。
いつもながらとてもわかりやすい解説だ。

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第228号(3月30日) を転載

集団的自衛権の義務

平和安保法制いわゆる安保法制が施行されて慶賀の至りであるが、世間では相変わらずこれを戦争法だという誤解がまかり通っている様だ。平和安全法制は日本の集団的自衛権の行使を一部容認する内容なのだが、自衛権の行使=戦争という認識がそもそもの間違いである。

北朝鮮は日本を射程に収める中距離弾道弾ノドンを既に実戦配備している。先日も日本海に向けてノドンを発射した。2009年4月には長距離弾道弾テポドン2号改良型が日本列島をまたいで太平洋に落下した。

では、なぜ北朝鮮の弾道弾は日本に落下してこないのであろうか?自衛隊は北朝鮮を攻撃する能力を有していない。ならば日本を攻撃しても北朝鮮は反撃される可能性がない訳で、日本を攻撃するのをためらう必要はないのである。

これは北朝鮮が米軍による反撃を恐れているからに他ならない。そのとき、日本が提供している米軍基地は北朝鮮攻撃の拠点として機能するのである。つまり日本は米軍に基地を提供することにより日本を守らせている。これ即ち集団的自衛権の行使である。

一言で言うなら日本は米軍に基地を提供した時から集団的自衛権を行使し続けている事になる。だが米国は日本を守っているが、日本は米国を守っていない。集団的自衛権の権利ばかりを行使して、権利に伴う義務を履行していないのである。

平和安全法制は、この義務を不十分ながらも履行しようとするものなのである。こうしてみると、この法制に反対している人たちの顔がはっきり見えてくる。彼らは権利ばかりを主張して義務を果たさそうとしない人たちなのである。

米国のトランプの対日発言が日本でも物議を醸しているが、彼はこの発言に限らず、どの発言も米国の一般大衆の受けを狙った極論である。従って今回の発言も米大衆の一般的な対日批判だと見ていい。そしてその批判の対象は、同盟国として権利ばかりを主張して義務を果たそうとしない日本なのである。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

鍛冶俊樹(かじとしき)

1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、第1回読売論壇新人賞受賞。2011年、メルマ!ガ オブ ザイヤー受賞。2012年、著書「国防の常識」第7章を抜粋した論文「文化防衛と文明の衝突」が第5回「真の近現代史観」懸賞論文に入賞。
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