本音と建前。世界の腹黒さをわかりやすく解説してくれます。

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第243号(7月15日) を転載

中国の没落

国際仲裁裁判所が中国の南シナ海領有の主張を否決した。中国の南シナ海侵略が国際的に認定された訳だ。これだけでも中国の痛手は大きいが、それに対する中国の対応は、もっと悪い。いわば、治療と称して傷口を更に広げてしまったようなものだった。

中国政府はこの裁定を紙くずと呼び、従わないと明言したのである。これで、中国は単に南シナ海を侵略しているだけでなく、国際法を紙くずとしか見ない北朝鮮なみの暴虐非道な国である事を内外に証明してしまったのである。

この対応により中国の国際的信用が低下するのは確実で、長期的に見た場合、中国の没落の起点となると言えよう。中国の軍事的暴発を懸念する向きもあるが、中国軍が日米同盟の鉄壁を打ち破れない事は、IT技術の発達した今日、コンピュータ・シミュレーションで猫にも分かる。

その何よりの証左は、前号でも触れたが6月17日、東シナ海での中国戦闘機の日本戦闘機への挑発事件である。中国機が日本機にレーダー照準を合わせ、気付いた日本機が離脱したとされる。

この事件は、2013年1月、東シナ海で中国の軍艦が日本の護衛艦にレーダー照準を合わせ、日本艦が離脱した事件に酷似する。レーダー照準を合わせるのは攻撃の準備であり、攻撃態勢を取ったことになる。だが両事件ともに中国側は攻撃していない。

レーダー照準が合わされて攻撃されれば、被害は甚大であり、これを阻止する為に日本側が先制攻撃するのは正当防衛であり、国際法的に合法である。だがそうなれば、戦争が始まる訳で、日本は無用の戦争を避けて離脱するという紳士的方法を選択した訳だ。

だが問題は、中国側が両事件ともにレーダー照準を合わせただけで、実際の攻撃に踏み切らなかったのは何故かという点だ。これは日本側に先制攻撃をさせたかったからである。挑発を受けて先制攻撃をしても国際法的には侵略と見なされないのだが、だからといって米国が日米安保を発動するとは限らない

米国の本音は日本と中国が支那事変の時のようにダラダラと戦争して、米国が漁夫の利を得る事にあるから、日本が先制攻撃したとなれば、「日本に侵略の疑いがないとは言えない」と声明して傍観するかもしれない。

中国の狙いは、ここにあり、日本に先制攻撃をさせて日米同盟を機能させないようにする戦略なのである。巧妙と言えば巧妙だが、逆にいえば日米同盟が機能する限り中国に勝機がないと認識している証左であろう。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

鍛冶俊樹(かじとしき)

1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、第1回読売論壇新人賞受賞。2011年、メルマ!ガ オブ ザイヤー受賞。2012年、著書「国防の常識」第7章を抜粋した論文「文化防衛と文明の衝突」が第5回「真の近現代史観」懸賞論文に入賞。
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