鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第237号(5月30日)を転載

伊勢志摩サミットの成果

伊勢志摩サミットの成果は一言で言える。いわく「中国封じ込め成功」である。勿論マスコミはそんな事は一言も言わない。言ったら、中国駐在の記者の安全は保障されなくなると中国当局から警告されている。サミット直前に中国で日本人がスパイ罪で起訴されたのがそれである。スパイ罪の最高刑は死刑だ。さすがに死刑をちらつかされて、日本はおろか世界中のマスコミが震え上がってしまった。

そこで英国のBBCなどは、安倍総理の発言を批判して中国の御機嫌取りに懸命だった。英首相キャメロンが、安倍総理の「リーマンショック前の状況に似ている」との主張に反対したから、BBCは自国の首相を援護したことになるが、英国自身が習近平訪英で7兆円融資されて、いわば国ごと買収されているのである。

政治分野で中国を名指しせずとも南シナ海・東シナ海と言えば、中国封じ込めの意図が誰にでも分かる様に、財政出動の交渉でリーマンショックと言えば参加国は、中国封じ込めの意図を明確に感ずる筈だ。何故かと言えば、2008年のリーマンショックから世界経済が回復したのは中国の財政出動のおかげであった。

だが中国経済の減速ないし崩壊が明らかな現状においてもはや世界経済の持続的成長を中国に依存する訳には行かない。中国に頼らず、先進国の財政出動により景気を維持しようとの合意は、明確に中国経済の世界経済からの切り離しを意味する。今回の財政出動合意は、中国の海洋進出牽制と同じコインの裏表の関係なのである。

あるコメンテーターはG7対中露朝の対立図式で説明していた。だが第2次大戦後の冷戦初期ならいざしらず、現状をこうした2極構造で捉えるのは時代錯誤であろう。何がなんでも中国の肩を持たなければならないマスコミには哀れさすら感ずる。

今月2日、ロシア海軍の海洋観測艦がベトナムのカムラン湾に入港した。20日にロシア南部のソチでプーチン大統領がアセアン首脳と会議に臨んでいる。ロシアが南シナ海を中国の領海と認めていないのは明白だ。ロシアも実は中国封じ込めに参加しているのである。

ちなみにこの会議の後の記者会見で、プーチンは「日本に経済支援と引き換えに北方領土を渡すことはしない」つまり「領土を売らない」と明言した。そこで前号での「領土を買え」との主張に説明を追加しておこう。
1993年、ロシアの当時の大統領エリツィンが来日したが、その直前にもロシアは「領土は売らない」と明言した。だがソ連崩壊で経済危機にさらされていた当時のロシアは本音では、経済支援を得るためには、北方領土を引き渡すこともやむを得ないと考えていた。
ところが当時、日本は自民党政権が崩壊し、8党連立の細川政権が成立した直後で、外交音痴の政治家ばかりで交渉したから、結局経済支援だけ取られて、領土は返らず仕舞いだったのである。

つまりロシアが「領土を売らない」と事前に明言するときは「売り値の吊上げ」の為の発言だと解すべきなのである。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

鍛冶俊樹(かじとしき)

1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、第1回読売論壇新人賞受賞。2011年、メルマ!ガ オブ ザイヤー受賞。2012年、著書「国防の常識」第7章を抜粋した論文「文化防衛と文明の衝突」が第5回「真の近現代史観」懸賞論文に入賞。
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