支那による南沙問題、北朝鮮による核問題など、米中の対立は避けられない状態だ。北朝鮮への軍事行動が現実味を帯びてきたが、そうなれば南沙問題が手遅れとなり米国がもつアジア太平洋地域への覇権は大きく失われる。南沙に建設された支那の軍事施設を攻撃すれば大規模な戦争をしなければならず、その間に北朝鮮の脅威は増す一方になる。同時作戦が望ましいがこの規模になると更なる同盟国の拡大と結束がもとめられる。任期終了間近のオバマ大統領にその決断ができるか疑わしいところだ。

メディアが報じない水面下の国際舞台を鍛冶俊樹さんが鋭く解説しています。

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第249号 を転載

戦争は不可避になった

中国杭州でのG20首脳会議、ラオスでのアセアン関連首脳会合、そして東アジアサミットが終わって、出た結論はただ一つ、もはや戦争は避けられないという事だ。だが、そんな分析はどのマスコミにも記されていない。何故か?

それは、米国がある重大な事実を伏せているからだ。その事実とは、中国の南シナ海の軍事化に関するものだ。従来、南シナ海のベトナム寄りの海域すなわちパラセル諸島(西沙)の軍事基地建設を米国は黙認してきた。

しかし南シナ海の中央スプラトリー諸島(南沙)については、中国に軍事化しないように要請し、中国も軍事化しないと約束していた。この海域に軍事基地が建設されると、南シナ海全域が中国の軍事勢力下に収まるばかりでなく、沿岸国すなわちアセアン諸国さらには米軍の軍事拠点であるグアム島までが、中国の軍事攻撃可能な対象地域となる。

米軍にとって容認しがたいのは明らかで、それゆえ米国はスプラトリー諸島における人工島の建設は軍事化を伴わない段階までは黙認し、戦闘機の配備などの軍事化は越えてはならない一線(レッドライン)としてきた。

ところがこの7月、米国の軍事偵察衛星はスプラトリー諸島に戦闘機が配備されているのを発見した。だがオバマ大統領はこの公表を禁じた。G20における米中首脳会談で習近平に直接会って、秘密裏に交渉し戦闘機を引き上げさせる算段であった。

戦闘機が配備された事実が公表されなければ、戦闘機を引き上げさせるのも中国に取って面子を潰されることなく、容易に妥協できようという読みである。だが現実には軍事基地建設は着々と進んでおり、戦闘機を格納する地下シェルターも完成している。

戦闘機を一時的に引き上げても、いつでも舞い戻って来ることが出来るのである。おそらくオバマもその事に気付いていただろうが、当面の危機を回避して自分の残り少ない任期内に戦争の決断をしたくない、という思いが優先したのである。

だがオバマのそんな弱腰の姿勢を見抜いた中国は、一時的な妥協すら必要ないと考えるようになった。北朝鮮にSLBMを発射させ、米中首脳会談では北朝鮮を抑制するようにオバマが習近平に依頼する構図を作り出したのである。こうすれば南シナ海問題は霞んでしまう。

本日、北朝鮮が核実験を行ったが、これも米国の中国依存を強めることになり、南シナ海の中国による軍事化が放置される結果を生むだろう。強固な軍事要塞が完成すれば、中国が撤収する可能性はなくなる。

米国の次の大統領がヒラリーだろうとトランプだろうと、米国の次期政権は南シナ海の中国要塞を破壊するか、グアム島の米軍基地を撤収するかの二者択一を迫られる。破壊すればただちに米中戦争となり、日本も中国の攻撃の対象となる。
もし米軍がグアム島から引き上げるとなれば、米国はアジア太平洋地域の覇権を手放すことになり、戦後71年続いた米軍による日本の平和すなわちパックス・アメリカーナも終わりを告げる事になる。

いずれにしても戦争は不可避となった。
 
 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

鍛冶俊樹(かじとしき)

1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、第1回読売論壇新人賞受賞。2011年、メルマ!ガ オブ ザイヤー受賞。2012年、著書「国防の常識」第7章を抜粋した論文「文化防衛と文明の衝突」が第5回「真の近現代史観」懸賞論文に入賞。
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