北朝鮮の核に対して抑止力を持たないのは、北京を首都にする中国だ。これからも中国は北朝鮮を恐れ、支援し続けるだろうという、とてもわかりやすい鍛冶俊樹さんのコラムです。

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第251号を転載

北朝鮮は生き残った

北朝鮮が5回目の核実験を実施した。5日に中距離弾道弾ノドンを3発、奥尻沖に撃ち込んだのと併せて、分析すれば、北朝鮮は弾頭重量700kgのウラニウム型(即ち広島型)核弾頭の開発に成功したと見られる。
北朝鮮は天然ウランの宝庫だから、今後、無制限にこの種の核弾頭の製造が可能になった。差し当たっては50発程度の核ミサイルが年内にも実戦配備されよう。ミサイルはノドンであり、射程1300km、北朝鮮から韓国全域、ウラジオストックは勿論、北京、東京までが、攻撃可能である。

テレビのニュースで「中国政府は北朝鮮が北京を攻撃しないと見ている」と記者が北京から伝えていたのが面白かった。まさにこれこそ、現在の北京政府の不安を語って余りある発言である。
ウラジオストックは北朝鮮に隣接しているが、そこの幹部は「北朝鮮が我が市を攻撃しないだろう」などと、わざわざコメントする必要がない。もし核攻撃されれば、モスクワが隷下部隊に核反撃を命ずることが必定だからである。
ソウルや東京も同様で、核攻撃されればワシントンが核反撃を命ずることは必定だから、核抑止されている。ところが北京は核攻撃されて中枢機能が壊滅されてしまえば、核反撃を命ずることができなくなる。つまり北京だけが核抑止されていないのである。

かねてから中国の北朝鮮への経済制裁は表面的なものであり、裏では支援を続けていると見られてきたが、今後、この傾向は一層助長されよう。つまり核抑止力を持たない中国は、もはや北朝鮮の要求に対して拒否権を持たないのである。
おそらく北京政府は、こうした事態が到来することを予見していたであろう。昨今、北京からの遷都が取り沙汰されている。水不足がその理由との事だが、真の理由は北の核脅威であろう。しかし直ちに遷都出来ない以上、当面は国連の目を盗んで北朝鮮を支援する他あるまい。
いずれにしても北朝鮮は生き残ったのである。

※遷都(せんと):都を他の地に移すこと。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

鍛冶俊樹(かじとしき)

1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、第1回読売論壇新人賞受賞。2011年、メルマ!ガ オブ ザイヤー受賞。2012年、著書「国防の常識」第7章を抜粋した論文「文化防衛と文明の衝突」が第5回「真の近現代史観」懸賞論文に入賞。
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