米朝会談決裂後の金正恩、米中対立が鮮明になり行き場のない習近平。その両名が訪ねたロシアでプーチン大統領はそれを歓迎するかのように振る舞い、アメリカを牽制するコメントを出した。とはいえ、トランプ大統領の就任を陰ながら喜んだのはプーチン大統領であり、冷え込んだ米露関係の緩和が期待される中、中朝のために犠牲を払うことはない。鍛冶俊樹氏が指摘するように、第2次世界大戦当初、日本との友好関係を利用し最後に日本を裏切って攻め込んできたソ連の手法が見える。

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル【6月13日号】 を転載

2日、中国の魏国防相がシンガポールで開かれたアジア安保会議で「台湾を中国から切り離そうとする者があれば、いかなる犠牲もいとわず戦う」と述べた。勇ましい発言に聞こえるが、実の所は降伏宣言に他ならない。
というのも前日、米国はインド太平洋戦略を発表し、その中で台湾を独立国として記述しているのである。米国は既に台湾に海兵隊を駐留させており、台湾への武器供与も始まろうとしている。

米国はもはや完全に台湾を中国から切り離しており、中国はとっくに米国に宣戦布告をしていなければならない筈なのだが、魏国防相は「中国は戦争を起こさない」「米国が戦いたいのなら戦う」と述べるに留めている。
また「米国が対話したいのならドアは開いている」とも述べている。つまり米国に宣戦布告していなければいけない状況なのに、それをせず対話を呼び掛けている。いわば講和を申し入れている訳で、これを降伏宣言と呼ばずして何と呼べばいいのか。

5日に習近平主席はモスクワでプーチンと会談し、中露の蜜月ぶりをアピールした。米国を牽制する狙いだった。プーチンも米国を非難して見せたが、リップサービスに過ぎず、米中の覇権争いを高みの見物という姿勢が垣間見えた。
プーチンの冷ややかな態度を見て、第2次世界大戦のとき、当初、日本との友好関係を利用しながら最後には日本を裏切って攻め込んできたソ連のスターリンを想起したのは私だけであろうか。

中国の一帯一路政策を支えているAIIB(アジアインフラ投資銀行)の2016、2017年の融資額は日米主導のアジア開発銀行の9分の1に過ぎず、もはや一帯一路の破綻は時間の問題だ。
 安全保障面でも日米に加えて欧豪印比が中国の拡大主義に批判的になり、24日には米国のペンス副大統領が更なる批判の矢を放つという。そして28日に大阪でG20サミットが開かれる。習近平はまさに四面楚歌の中、訪日することになろう。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

鍛冶俊樹(かじとしき)

1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、第1回読売論壇新人賞受賞。2011年、メルマ!ガ オブ ザイヤー受賞。2012年、著書「国防の常識」第7章を抜粋した論文「文化防衛と文明の衝突」が第5回「真の近現代史観」懸賞論文に入賞。

リンク
動画配信中:「戦争の常識」第1回無料
http://www.nicovideo.jp/watch/1494517092
上記動画のテキスト本
「戦争の常識」(文春新書)
http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784166604265

動画配信中:「地政学入門」第1回無料
http://www.nicovideo.jp/watch/1475838508
上記動画のテキスト本
「領土の常識」(角川新書)
http://www.kadokawa.co.jp/book/bk_detail.php?pcd=321212000089

動画配信中:「地図で見る第二次世界大戦」第1回無料
http://www.nicovideo.jp/watch/1441391428
上記動画のテキスト本
文庫「図解大づかみ第二次世界大戦」
http://www.kadokawa.co.jp/product/321502000376/

動画配信中:「現代戦闘機ファイル」第1回無料
http://www.nicovideo.jp/watch/1411697197
上記動画のテキスト本「イラスト図解 戦闘機」
http://www.tg-net.co.jp/item/4528019388.html

動画配信中「よくわかる!ミサイル白書」第1回無料
http://www.nicovideo.jp/watch/1383640409
上記動画のテキスト本「超図解でよくわかる!現代のミサイル」
http://www.tg-net.co.jp/item/486298102X.html?isAZ=true
2017年12月、韓国で韓国語訳が出版。
その他の著書:
「国防の常識」(角川新書)
http://www.kadokawa.co.jp/book/bk_detail.php?pcd=201203000167
「エシュロンと情報戦争」(文春新書、絶版)