日本海に向けて数発のミサイルを撃ち込み、完全孤立を深めたかに見える北朝鮮だが、孤独ではない、中国を道連れにしている。
いつもながらこうした深読みをわかりやすく解説してくれる、鍛冶俊樹さんの軍事ジャーナルです。
金縛りの中国
6日、北朝鮮が中距離弾道弾スカッドER4発を日本海秋田沖に撃ち込んだ。翌日には打ち上げの映像を公開し「在日米軍基地の打撃を担う部隊が訓練に参加した」と紹介した。こうした紹介は「異例だ」とマスコミは言ったが、異例なだけではなく奇妙なのである。
発射されたのは北朝鮮北西部、スカッドERの射程は1000kmだから、そこにある部隊のスカッドERは大半の在日米軍基地に届かないのである。もし本当に在日米軍基地を狙っているなら南東部に置く筈であり、つまりこの部隊は在日米軍を狙っていない。
北西部から北京までは1000kmであるから、明確にこの部隊は北京を狙っている。中国は発射直後に、「北朝鮮によるこの発射は現在行われている米韓合同軍事演習に反発したもの」とする見解を述べていた。北朝鮮の翌日の発表は中国のこの見解を否定した事になる訳だ。
つまり北朝鮮の真意は明快に中国に向けられたものだ。「石炭の輸入停止とか言っているけど、まさか本気じゃないよな。そんなことを本当にしたら、どうなるか分かってんだろう」「金正男の殺害だって、中国が旅行日程を教えてくれたから実行できた。つまり中国は了承したんだよ」
まさに北朝鮮が映像を公開した7日、金正男の息子のハンソルの動画が公開された。中国にある脱北者支援団体のホームページだが、要するに中国の情報機関によりハンソルは保護され外国に移されたのだ。
マレーシアは金正男のDNA鑑定のために中国マカオにいたハンソルの協力を要請し、しかし中国は北朝鮮の手前、協力できず処置に困ってハンソルを放り出したのである。ハンソルは動画の中で米国にも礼を述べているから、中国が米国に泣き付いたことは確かだろう。
こうしてみると、今追い詰められているのは北朝鮮ではない。北朝鮮の金正恩と米国のトランプに挟まれて身動きが取れなくなっているのは、中国人民代表大会という華やかな政治ショーの真ん中に座っている人物、習近平その人である。
軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、第1回読売論壇新人賞受賞。2011年、メルマ!ガ オブ ザイヤー受賞。2012年、著書「国防の常識」第7章を抜粋した論文「文化防衛と文明の衝突」が第5回「真の近現代史観」懸賞論文に入賞。
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