北朝鮮の脅威を拡大したい場合は、北の言っていることを丸写しで報じればいい。政治的利用価値は高い。
しかし鍛冶氏が指摘するように、原爆より小さい水爆はないし開発動機も使い道すらないものを作るはずがない。しかもその予算も技術もない。従来の原爆実験とみなすべきだろう。北朝鮮の攻撃範囲内でもソウルやウラジオストックでは反撃された瞬間に終わってしまう。最も効果的なのは北京だ。近年の中朝関係を見れば容易に想像できるが、これは中国に対する強迫行為だ。

安倍政権による中国包囲網やそれに順ずる抵抗勢力はあるが、今の中国に対して攻撃力を示しながら威嚇するのは北朝鮮だけだ。

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル【1月13日号】 を転載

水爆に非ず

水爆実験というと特に、日本ではインパクトがある。米ソ冷戦初期にビキニ環礁で米軍が初の水爆実験を行い、第5福竜丸が被害にあった記憶が、いまだ鮮明なのだろう。だが精密誘導が可能になった現在、ピンポイントで敵の軍事拠点を攻撃すればよくなり、過剰殺戮の水爆は軍事的にも敬遠される兵器である。
北朝鮮が水爆実験に成功したと喧伝したが、原爆より威力の小さな水爆がある訳もなく、相変わらず北朝鮮は、世界中の軍事関係者から失笑を買っている。もし、水爆なら失敗だったことになるし、そもそも水爆の開発目的は何なのか。

水爆は原爆よりも大型化し、重量も増す。ミサイルの弾頭は小型軽量の方が、当然遠方に届くから、水爆など開発してもICBMの弾頭にして米国を攻撃するのは、ますます困難になる。
今の北朝鮮の技術水準では重量1トンの核弾頭を弾道ミサイルに装着しても米都ワシントンには届かない。東京も多分無理で、ソウル、北京、ウラジオストックには確実に届く。つまり水爆開発の目的は北朝鮮の同盟国を攻撃する以外にはあり得ないことになる。

そこで、北朝鮮はSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の実験写真を公開し始めた。潜水艦に核ミサイルを搭載して、米国近くまで密かに近付けば、ワシントンも攻撃可能になる。つまり「我々の攻撃目標はあくまで、ワシントンであって、北京ではありませんよ」と言い訳しているのだ。
だが米大陸近くまで潜航するには、原子力潜水艦が必要だが、北朝鮮は原潜を持っていないし、開発しているとの情報もない。どうしても、北の攻撃目標は北京だとしか思えない。これで、中国に核開発の為の支援を要求したら、断られて当然だろう。

冒頭に述べたように、水爆は開発経費が莫大で、しかも軍事的に必要な兵器ではない。恐らく北が水爆と詐って開発しているのはウラニウム型原爆だろう。これは構造が単純で開発が容易である上に、北朝鮮は天然ウランの産地なのだ。
だがウラニウム型原爆も小型化出来ないから、やはりワシントンには届かない。核攻撃は敵の軍事中枢を破壊して反撃機能を奪わないと核報復されてしまう。ソウル、東京、ウラジオストックを核攻撃しても、ワシントンやモスクワが機能していれば核報復で平壌は壊滅してしまう
つまり北朝鮮が核攻撃可能なのは、やはり北京しかないのである。

今の北朝鮮と中国の関係を、私はしばしば、銀行と暴力団企業に例える。事実上倒産している中小企業に銀行が融資しているとしよう。ところがその企業はじつは暴力団であって、融資を打ち切ろうとすると、銃弾が撃ち込まれるという構図は日本でもお馴染だろう。
「拳銃だけじゃない、マシンガンだってあるんだ」と3代目がうそぶき、警察署長のケリーが支店長の王毅に「あんたの所で面倒を見ると言ったんだから、穏便に型を付けてよ」と囁いていると言った所か。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

鍛冶俊樹(かじとしき)

1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、第1回読売論壇新人賞受賞。2011年、メルマ!ガ オブ ザイヤー受賞。2012年、著書「国防の常識」第7章を抜粋した論文「文化防衛と文明の衝突」が第5回「真の近現代史観」懸賞論文に入賞。
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