いまさらいうまでもないだろうが「中国軍は堕落した」。
それをわかりやすく解説してくれます。

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル【9月22日号】 を転載

中国軍は堕落した

9日、中国の軍事副主席、范長竜が米国のライス大統領補佐官と北京で会談し、席上、米国の中国に対する偵察活動の停止を求めたという。先月19日に中国戦闘機が南シナ海で米軍偵察機に異常接近し、それに対する説明を米国が求めた末の中国側の回答がこれである。

つまり、公海上を飛行する米軍機に接触事故が起こり兼ねない程の危険運転を試みたのは、「そこに米軍機がいたからで、事故がいやなら米軍機がそこから出て行けばいい」という訳である。

「暴走行為は危険だからやめろ」と注意された暴走族が「普通の自動車が公道を走らなければいい」と逆切れしたようなものである。余りの非常識な回答振りに女性のライス補佐官は何と言っていいか、分からなくなってしまったらしい。

もっとも中国を弁護する人には事欠かない。「先月中旬に中国の潜水艦隊は南シナ海で訓練を実施していた。それを米軍に偵察されたくなかったので、中国戦闘機が牽制したのだ」一見、軍事的な解説をされると中国が正しい事をしているかのように見えてしまう。

だがこんなのは軍事でも、解説でもない。そもそも潜水艦がなぜ潜るかといえば、姿を見えなくするためだ。見えない敵は脅威だから相手はその所在を探るべく偵察機(対潜哨戒機)を飛行させるのである。

「中国は米国の敵ではなく、中国軍は米軍の脅威ではないのだから、米軍は中国軍を偵察するのをやめろ」という中国の主張が如何におかしいかは、これで分かろう。もし中国潜水艦が米軍を敵視していないのならば、米軍機に潜水訓練を偵察されても問題は無い筈である。

要するに中国は「米軍を攻撃するための訓練を米軍に知られたくないから、偵察をやめろ」と言っているようなものなのである。ライスが訳が分からなくなるのも当然で、軍の高官は普通、こんな事を言わないものなのだ。

そもそも米軍がこんな事を言われて偵察をやめる訳はない。米軍を敵視していることは確実なのだから、もっと偵察を強化しようと考えて当然であろう。つまり、こうした発言は逆効果でしかないから責任ある立場の人間は口にしない。

ところが中国では、事実上、軍のトップにある人間がこうした無責任な発言を公然としている。もはや中国軍は完全に堕落したとしか言い様がない。世に精強な軍隊ほど安心なものはなく、堕落した軍隊ほど不安なものもない。精強な軍隊は平和のために邁進するが、堕落した軍隊は際限のない戦乱を引き起こすからだ。

堕落した中国軍は世界各国が連携して封じ込める他あるまい。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

鍛冶俊樹

1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

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