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鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第160号 を転載

二つの停戦

この十日間に国際社会では相次いで二つの停戦が合意された。8月26日にイスラエルとハマス、9月5日にウクライナ政府軍と親露派とがそれぞれ合意に漕ぎ着けた。ともに世界大戦に発展しかねない戦闘だったから、ともかくも停戦したのは良い事である。

だがマスコミの報道には問題がある。日本のマスコミは今回の戦闘について、全般的に反イスラエル、反ロシア的な傾向が強く、従ってこれらの合意についても、「悪者」であるイスラエルやロシアが抑え込まれたかのような報道になっている。

ハマスは決して市民の味方などではないテロリスト達であり、今回もロケット砲により、イスラエルに無差別攻撃を繰り返した。その報復としてイスラエルはガザに侵攻したが、ハマスがガザ市民を人間の盾としたから、国際社会から非難を浴び、信用を失った末の停戦である。つまり抑え込まれたのはハマスであり、イスラエルではない

ウクライナ紛争について言えば、ウクライナにロシア軍が侵入しているのが明らかなのにも関わらず、欧米は正規軍を派遣せず、NATO加盟の打診にも否定的だった。NATOは緊急派遣軍を創設するというが、今回の戦闘には間に合う訳もない。
しかもその緊急派遣軍は二日以内に派遣されると決めたと言うが、即日派遣されない部隊をどうして緊急派遣軍と呼べるのか?二日あれば、ロシア軍はウクライナ全土を制圧できるのである。
要するにウクライナは欧米に見捨てられて、ロシアと停戦した。抑え込まれたのはロシアではなく、ウクライナであることは明らかであろう。

日本のマスコミは、戦後秩序から逸脱したイスラエルとロシアを当然のことながら「悪者」として扱った。その「悪者」が勝利したと報道したら、「自らが正義と信ずる戦後秩序」の崩壊を認めざるを得なくなってしまう。さすがにまだその勇気はないらしい。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

鍛冶俊樹

1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

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