いつもながら鍛冶俊樹氏はとてもわかりやすく解説してくれる。 昨日のメルマガ を読みあらためて思う。
「米軍の撤退」は現実に起こりうることだ。

沖縄県の尖閣諸島では連日のように領海侵犯や領空侵犯か繰り返されているが、日本政府は言葉を発するだけで何ら効果的な対応をしていない。あげくに中国の戦闘機が日本の偵察機に対してわずか30メートルまで接近するというサーカスもどきの脅しをしてきた。

政府は相変わらず「遺憾の意」「強い抗議」といいながら、何もしない。領土を守る覚悟のない日本のために米軍基地から米兵が命がけで出てくるはずがない。

安倍政権発足直後に米国要人が「尖閣諸島は日米安保の範囲内だ」といったのは、統治学の観点からだ。安倍首相が強く出ることを見越し、自らリーダーとしての立場を守るために先手を打ったのだ。安倍首相の決意表明に追随しては立場が揺らぐからだ。

沖縄の普天間基地のゲート前では、「ハンセンヘイワ」「基地反対」を叫ぶものたちが米兵やその家族に向けて罵声を浴びせているが、彼らはどんなに騒いでも強大な米軍基地が撤退するはずがないと思い込み、安心してヒステリックに騒いでいるのだ。

一方、領海・領空侵犯の被害当事者である石垣市民や八重山諸島の人々は至って冷静で、中国に対する抗議活動すらなく平穏な生活をしている。八重山特有の事なかれ主義もここまで徹底しているのか、これが一番恐ろしい。

本来なら危機にさらされているこの八重山地方こそ「反戦平和」「領海侵犯を許さない!」と声を高めるべきだ。市民は無力でそれは国がやることだ、という人がいる。だが、被害当事者が強く求めなければ自国の政府とて動かないのだ。拉致被害者の家族が長年訴え続けても、政府が動き世論が注目するようになったのはこの数年のことだ。

尖閣諸島も東京も日本の領土だ。無人島であれ首都であれ、この領土を守る決意があるなら、政府は言葉ではなく行動を示せ。国防は自分でやることであって、アメリカの都合にゆだねるものではない。一刻も早く、強固な防衛体制を構築するため、八重山と政府は一体となるべきだ。

「米軍の撤退」は現実に起こりうることなのだ。

 
鍛冶俊樹の軍事ジャーナル第151号 を転載

米軍撤退のデジャヴ

「ミス・サイゴン」は1989年に公開され、世界的に大ヒットしたミュージカルで、日本では今は亡き本田美奈子が主演して話題になった。舞台はベトナム戦争末期の1975年、南ベトナムの首都サイゴンが陥落する寸前から始まる。

その前年1974年に米軍は南ベトナムから撤収しており、もし南ベトナムに敵軍である北ベトナム軍が侵入すれば、米軍は再び駆け付けるという約束だった。だが中国とソ連(ロシア)の支援を受けていた北ベトナム軍が突如侵入を開始し、サイゴンが包囲されるに至っても米国は国内事情から米軍派遣を決断できなかった。

そんな状況のサイゴンで米国大使館の職員のクリスはベトナムの美少女キムと恋に落ち、結婚のために上司に電話で休暇を申請する。そこで上司が叫ぶ。「お前、正気か?休暇は一切許可されない。サイゴンは陥落するんだぞ。サイゴン市民は脱出しようと米大使館に押し寄せている。南ベトナム大統領グエン・バンチューは辞任した。米国は軍隊を派遣しない。分かるか、これが何を意味するか。恋している場合じゃない。」

冷戦終了後の1990年代に私はこのミュージカルを見て涙したが、同時に「冷戦が終了した今日、こうした戦争の悲劇は再び起きるのだろうか?」などと自問自答したものだ。だが現在、答えは明瞭だろう。今、イラクでそれは起きている

2011年末、米軍はイラクから撤収した。ところが今月、イスラム武装勢力が周辺国からイラクに侵入し大都市を次々に制圧し、今や首都バグダットも陥落寸前だ。だが米軍は派遣されない。それどころか米軍の派遣を要請しているイラクのマリキ首相に米国は辞任の圧力を加えているのだ。

米空母ジョージWブッシュはペルシャ湾に派遣されたというが、確かサイゴン陥落時にも米空母はベトナム沖に派遣されたね。北ベトナム軍を空爆するためというよりも、米大使館からヘリで脱出する米市民や親米ベトナム人を収容するためだった。

歴史におけるデジャヴというべきか。だが遠いイラクでの出来事に既視感を抱けるうちは、まだいい。いつかこの日本で「これはベトナムやイラクで見た光景だな」などという感想を抱く日が来ないと果たして言えようか。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

鍛冶俊樹

1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

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