歴史は繰り返す。歴史に学ぶことが重要だ。そう痛感する。
日本人は他国の紛争には無関心な習性がある。いや、国内においても竹島や北方領土、拉致事件や尖閣の領海侵犯に対しても、どこか他人事のように見つめる傾向が強い。
クリミア半島では欧州を含めた米露の一触即発状態で、今回はロシアが一歩リードで完全優位を占めた。1850年代に、アメリカを除く欧州列強がこの地域で行った戦争によって、日本は予想もしない影響をうけた。ペリーの来航だ。
そして今回予想されるのは支那からの干渉だ。領土紛争に消極的なアメリカ。言葉だけで行動しないアメリカ。支那が尖閣や台湾に対して遠慮してきたのは、沖縄の嘉手納基地を恐れていたからだ。ペリーの来航は予想外だったかもしれないが、あらゆる予測ができる今の状況下では、「予想外」などという言い訳は通用しない。
ウクライナの教訓
ロシア軍がウクライナに侵攻した。クリミア半島は既にロシア軍の占領下にある。何故こんな事態になったのか?
ワシントン時間28日金曜日、ロシアの特殊部隊がウクライナに侵入しているのが明らかな段階で、米国のオバマ大統領がした事といえば、ウクライナへの「いかなる軍事介入も代償が伴う」と警告しただけだった。そしてオバマは週末の休日を楽しんだのだ。
だがこの土日こそ、決定的に重要だった。この二日間でロシアはクリミア半島全域を完全に軍事占領したのである。つまり金曜日にオバマがすべきことは声明を出すことではなく、米海兵隊のウクライナ派遣を決断することだった。
もし派遣を決断していれば、ロシア軍のクリミア占領はあり得なかった。プーチンは軍に侵攻作戦の停止を指示し、特殊部隊は撤収しただろう。クリミア半島はロシアにとって戦略的要衝にあたり、ロシアが一旦ここを占領したら、そう簡単に手放そうとしないのは歴史の教えるところである。拙著「領土の常識」でも言及しているとおりだ。
問題が長期化するのは間違いなく、オバマは軍事不介入でもっと大きな代償を支払わなくてはならなくなった。
さて日本への影響だが、米国の不介入を目の当たりにした、中国や韓国が尖閣や対馬に軍事侵攻する公算は高まった。もしそうした兆候が見られたら安倍総理のすべきことは、米国に助けを求めることではなく、躊躇なく自衛隊を出動させることである。
初期対応が早ければ早いほど事態の長期化が避けられるとは今回のウクライナ危機の教訓であろう。
関連資料: クリミア戦争 (1853-1856)
※欧米列強はこの時期クリミア戦争に集中しており、アジア方面まで干渉する余力はなかった。そしてアメリカのペリーは他国を気にせず日本に干渉してきた。
軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。
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