今もっとも目が離せない中朝関係。緊張が臨界に達した時、アジアの状況が一変します。

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル【3月13日号】を転載

北朝鮮軍の悲鳴

毎年、この時期は米韓合同軍事演習が行われ、それに対して北朝鮮が反発するという恒例行事が見られる。もっとも2010年3月には韓国の哨戒艦「天安」が爆沈され、多数の韓国兵が殺されているから、警戒を要するのは言うまでもない。

今年は北の核・弾道弾実験を受けて米韓演習も最大規模となり、それに対する北の発言も例年になく激烈である。昨日、北朝鮮軍は「先制的な報復攻撃作戦の遂行に移行する」と声明を出した。先制攻撃すると事前に通告しては先制できないから、この声明には裏があると見るべきだろう。

1990年代まで北朝鮮は毎年、米韓合同軍事演習に対抗して「冬季訓練」という大規模軍事演習を行っていた。2000年以降次第に行われなくなり、代わってミサイルを日本海に打ち込むなど小規模な軍事行動が見られるようになった。これはエネルギー不足で大規模軍事演習を行えなくなったことを意味する。なぜエネルギー不足に陥ったかといえば、それまでエネルギーを供給していた中国が次第に供給量を絞っていった為である。

中国は国連の制裁決議を忠実に履行してきたとは言い難いが、中国独自の制裁を実施してきたのも事実である。この結果、中朝関係はしばしば険悪になったのである。しかし朝鮮戦争以来続く中朝軍事同盟は健在であり、中国軍は朝鮮半島有事には北朝鮮軍を援助する義務がある。昨日の声明には「攻撃作戦の遂行に移行する」とあり、戦闘態勢への移行を宣言している。つまり「有事になったから中国軍は北朝鮮軍にエネルギーを援助せよ」と述べているのである。

北の核・弾道弾実験に対して、2月23日、米中外相は対北制裁で合意し、3月2日には国連安保理で制裁が決議された。実は2月初め、総参謀長つまり北朝鮮軍のトップであった李永吉が粛清された。新参謀総長は元警察のトップであるから、中朝軍事同盟とは無縁の人物である。中国の瀋陽軍区は北朝鮮軍とは縁が深く、平時においても秘密裏に僅かながら支援をしていたと見られる。

だが瀋陽軍区は北部戦区に改編され、北の新参謀総長は中国軍とは縁もゆかりもない人物となれば支援は当然打ち切られただろう。してみると今回の北朝鮮軍の声明は、中国軍に「一刻も早く支援をくれ」という悲鳴にも似た懇願ではあるまいか。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

鍛冶俊樹(かじとしき)

1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、第1回読売論壇新人賞受賞。2011年、メルマ!ガ オブ ザイヤー受賞。2012年、著書「国防の常識」第7章を抜粋した論文「文化防衛と文明の衝突」が第5回「真の近現代史観」懸賞論文に入賞。

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