東シナ海で行われることになった「中露海軍演習」。それぞれの国内事情が大きく絡み合ってます。間違いの許されない判断が求められるのが国際政治です。その場しのぎの甘い判断が、後に大きな損害をもたらします。民主党政治のように。
中露海軍演習の真意
中国海軍とロシア海軍が今月下旬、東シナ海で合同軍事演習を実施するそうである。東シナ海といえば尖閣周辺で実施する事が危惧される。ときあたかも、オバマが日本で「尖閣は日米安保の対象」と明言し、フィリピンに再び米軍基地を置くと宣言した直後である。
この時期にそんな事をすれば。東アジア地域において日米対中露の軍事対立は避けがたいものになろう。しかしこの対立構造は、米国と対立したくない中国にとっても、また日本と対立したくないロシアにとっても好ましくはない筈である。
では何故、中露は東シナ海で演習をする羽目になったのか?疑問に感ずる所である。というのも中露海軍は昨年7月には日本海で、一昨年4月には黄海で合同演習を行っているが、東シナ海まで出てきたのは今回初めてである。
実は中露の海軍の合同演習は一昨年からだが、海軍だけに特化しない合同軍事演習はそれ以前から行っている。中露の大規模な合同軍事演習の最初は2005年8月である。中国山東省の山東半島で実施された。
当初、中国は台湾に近い浙江省での実施を主張、「米国を刺激する」とロシアが難色を示し、朝鮮半島の付け根にあたる遼東半島に変更されたが、これまた「北朝鮮を刺激する」ということで対岸の山東半島での実施となった。
さてこの経緯を見ると、今回、東シナ海で行う事は、「米国を刺激する」故に好ましくないのは明らかだが、昨年同様、日本海で行うことは「北朝鮮を刺激する」故に出来ないという中露の苦しい事情が見えてくる。
そして北朝鮮の意向を優先したということなのだろう。なにしろ北朝鮮は「新しい形態の核実験を行う」と宣言している。北朝鮮の核兵器はワシントンには届かないが北京やウラジオストックには確実に届くのだ。
ロシアとしてはウクライナ問題で中国を味方に付けたいし、中国はロシアからの天然ガスと兵器の供給を必要とするから、合同演習そのものは外せない。やむなく東シナ海での実施と相成ったわけだ。
さて注目すべきは東シナ海のどこで実施するか?である。もし尖閣周辺で実施すれば、米国、豪州、アセアンは日本側に付くだろう。中国は海外からの投資が減額され、ロシアは極東開発で日本の協力を得られなくなる。悪魔の選択である。
軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。
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