いつもながら支那の内情を鋭く分析する宮崎正弘さんの解説に惹かれながら、これから私たちはどう考え行動すべきなのか、つい繰り返し想いふけてしまう。
政敵を野放しにすることは独裁政権にはタブーである。
歴史的にも独裁者の移行が繰り返され、天下泰平とは無縁の支那大陸。日本人同士の紛争には「話の落としどころ」があり、第三者を仲介にして「示談」するという島国特有の知恵と習性があるが、大陸にはそうしたものはなく徹底的に敵を駆逐し、権力の座においては前任者をすべて否定し殺戮と破壊が尽くされる。中国国民党が王朝を崩壊させた後、兵士らが西太后の墓をこじ開け亡骸をさらして歓喜する姿は、私たちには理解できない。これが海洋国家の農耕民族と大陸国家の騎馬民族との決定的な違いではないか。
大陸と接し半島の根っこに存在する北朝鮮も同様だ。側近のファミリーであっても政敵と断じれば容赦なく見せしめ処刑にする。
やがてこうした体制は崩壊するのだが、その後においても新たな権力者による独裁的統治が繰り返されてきた。中国共産党が崩壊したとき、やはり毛沢東の墓はこじ開けられ亡骸を晒されることになるだろう。それがわかる鄧小平は家族に、「私が死んだら亡骸を残さず海に散骨しろ。やがて共産党が崩壊したとき、民衆は私の墓をこじ開けて屍を踏みつけつばを吐きかけるだろう。私の亡骸は残すな」と言い残し、家族はそれに従って海に散骨した。
支那と北朝鮮は崩壊間近だが、それは制度疲労に絶えられなくなったというだけのことであり、その地域は形を変えながらもまた新たな統治者に変わるだけだ。中共や北朝鮮が崩壊しても、日本にその脅威がなくなるわけではなく、また新たな緊張が生まれ油断できない隣人関係は続く。「和」をもって接してもそれが通じない地域であることは変わらない。だが日本は、こうした状況のなかで安倍政権であることが唯一の救いだ。
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成25(2013)年12月18日通巻第4090号 を転載
習近平、「石油派」への取り調べで黒幕の周永康へ王手
「拘束、逮捕」は小物から大物へ、中南海の権力闘争は新段階
薄煕来の取り調べ、拘束、起訴、そして無期懲役の政治劇の進行により、幕は下ろされた筈だった。しかし燻り続ける中南海の暗闘は引き続き習近平の反対陣営にメスが入る。
政敵を野放しにすることは独裁政権にはタブーである。
習政権は李克強率いる団派(共産主義青年団)との確執を宿命としながらも、習の背後に控える上海派とその黒幕である江沢民を巻き込んでとの対決構造と見られてきたが、反腐敗キャンペーンを嵩にきて、石油派への本格的な摘発は最後の牙城、周永康を自宅軟禁においたことで新段階を迎えた。
周永康の自宅軟禁説は夏頃から燻っていたが、博訊新聞網は12月1日付けで妻とともに自宅軟禁され、すでに息子の周文武も拘束された、容疑は前妻殺害容疑である、と報道した。
中国のメディアは12月17日、中国石油天然気集団の「監査役」として君臨した温青山の「辞任」を伝えた。辞任は表面的で、実質は失脚である。
もとより自動車販売が年間2000万台という驚異的発展に支えられた中国で、石油は最大の利権のひとつである。
従来、勝利油田、大慶油田系が江沢民派主導の「石油派」によって抑えられ、昆倫油田系は傍流と考えられてきた。その昆倫油田系へもメスが入ったことが判明し、石油派全体への追求が予想より大規模に進んでいることが分かった。
現在の政治局常務委員の七人のうち、張雲山、張高麗、愈正声、張徳江の四人が上海派であり、このうち張高麗が石油派から江沢民の強い支持で政治局常務委員となった。
周永康(前政治局常務委員)は12月11日に行われた前石油部長=唐克の葬儀に欠席した。
唐は周を引き立てた恩人であり、その葬礼に礼を欠くこと自体が異例。すなわち出席できない物理的理由があると観測された。花輪も贈らなかった。贈れない事情が出来したことが判明して、彼の失脚は確実となった。
というのも7月の元石油副部長だった陳烈民の葬儀では周永康の花輪が確認されており、唐克は、陳よりはるか上位の石油人脈に位置するため、周永康の失脚説は確実になる。
8月に周永康の取り調べが進んでいることが香港のメディアに伝わり、在米華字紙は一斉に失脚予測を強めていた。
直後に「周の金庫番」といわれた蒋潔敏(政治局員)の逮捕拘束による失脚が表面化し、これで大物への捜査の決め手となるか、これで打ち切りか情勢判断が分かれた。石油派幹部の四百名近くが取り調べを受けた。
ながらく中国石油の経理責任者をつとめた温青山が取り調べに対して協力的になり、芋づる式に四百名の高官が拘束、取り調べを受けてきた。それでも周永康は、前政治局常務委員であり、捜査の手が伸びることはなかった。
現段階で、今後の展開を予測することは困難をともなうが、石油派という腐敗の温床への鉄槌は、習政権がすすめてきた反腐敗キャンペーンの終盤戦に近く、
第一に軍の綱紀粛正と谷俊山の失脚、第二に金融業界への手入れによって海外不正送金や海外逃亡予防、第三に鉄道部の汚職摘発、劉志軍の逮捕、死刑(執行猶予)により鉄道部解体再編となり、第四に薄護煕来の失脚へと繋がって
習近平は団派との確執を横に置いて、権力基盤を一応は固めたが、この政治状況を巧妙に利用して台頭した毛沢東派という新しい脅威を目の前に抱えることとなった。
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