最近アメリカでよくいわれる「知的財産権の侵害」とは、サイバー攻撃によるインターネットの破壊だ。そもそもインターネット技術は米軍が開発し使っていたものだ。それが一般に開放され、今や世界中の国々がそれを活用している。

中国によるサイバー攻撃が問題視されて久しい。今まで放置されていたともいえるこの危機に毅然と対応し始めたトランプ政権だが、それを見るにつれなぜ歴代の大統領は無作為でいたのか改めて思うところだ。

中国に対する関税を先送りして融和を演出し、直後にファーウェイのNO2を逮捕した。これはサイバー攻撃に対する報復だ。そして数日後に中国を除く日欧で大規模に発生した通信障害。これは中国による欧米への恐喝か。
もはや米中は大戦真っ只中だ。

いつもながらとても興味深い分析の鍛治俊樹のメルマガを転載する。
軍事ジャーナル【12月17日号】を転載

米中情報戦争、真っ只中!

もはや「米中貿易摩擦」などとは言わなくなった。「貿易戦争」でもまだ手ぬるい。いま米中間に起きているのは明確に「情報戦争」である。戦争には二つの側面がある。一つは「目に見える戦い」すなわち正規戦、もう一つは「見えない戦い」すなわち情報戦争である。

米国が中国の通信大手ファーウェイの製品を規制し、同社副会長で同社創始者の娘である孟晩舟がカナダで逮捕され、同日AI研究に深く関わる中国系の張首晟スタンフォード大学教授が謎の死を遂げた。
その5日後の12月6日にソフトバンクを始め、日欧の通信大手で大規模障害が発生している。しかも障害は世界規模であったのに拘わらず、中国でまったく起きていない。情報戦争の視点で見れば誰が仕掛けたのか、明らかだろう。

12月1日にトランプと習近平は南米ブエノスアイレスで、中国の知的財産権侵害を再度協議する合意をした。会談で合意しながら孟晩舟を逮捕させる米国の真意がどこにあるかと言えば、まさにこの知的財産権の保護にある。

そもそも1990年代にソフトウェアが知的財産として保護されるようになって始めてインターネットが成立した。つまり知的財産権はインターネットを成立させる法的基盤であり、これなしにはインターネットは成立しない。中国によるサイバー攻撃は知的財産権の侵害に他ならずインターネットそのものを破壊する行為であろう。

米中会談で中国の南シナ海などへの海洋進出が議題にならなかったのを訝る声もあった。日本としては中国の尖閣侵略を問題にして貰いたい所だったが、米国としては中国のサイバー戦能力を無力化する事を最優先事項として交渉に臨んだのであろう。

インターネットは本来、米軍の情報通信システムであり、米国の陸海空の戦力はインターネットにより制御されている。もしインターネットが破壊されれば米軍の巨大な戦力も一夜にして鉄屑になる。
実はこれは逆も言える。中国の陸海空の戦力も同様にインターネットで結ばれており、中国軍がサイバー戦能力を失えば、これらの戦力もまた一夜にして巨大な鉄屑となるのである。米中は実は我々が目の届かない情報領域で世界大戦を既に繰り広げているのである。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

鍛冶俊樹(かじとしき)

1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、第1回読売論壇新人賞受賞。2011年、メルマ!ガ オブ ザイヤー受賞。2012年、著書「国防の常識」第7章を抜粋した論文「文化防衛と文明の衝突」が第5回「真の近現代史観」懸賞論文に入賞。

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<著書> 
イラスト図解 戦闘機 (イラスト図解シリーズ)
超図解でよくわかる! 現代のミサイル
領土の常識 (角川oneテーマ21)
国防の常識 (oneテーマ21)
戦争の常識 (文春新書)
エシュロンと情報戦争 (文春新書)
総図解 よくわかる第二次世界大戦
イラスト図解 戦闘機
超図解でよくわかる!現代のミサイル