「日露、軍事同盟を締結」などという見出しに違和感があるが、国際政治の土俵ではありえることだ。支那の脅威は日本のみならずロシアにとっても共通するもので、これは北朝鮮の脅威を最も受けているのが支那であるように、陸続きの国境があるロシアのほうが深刻だろう。それを利用するのが国際政治だ。

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル【11月21日号】 を転載

日露、軍事同盟を締結

中国軍の情報収集機が16日、17日の二日連続で日本の防空識別圏を飛行した。この報道は防衛省の公表に基づくが、18日に中国の国営テレビは「地域の緊張を誇張し、日本の軍拡の口実にしている」と防衛省が公表した事自体を批判した。
中国の対日批判は常に筋違いで的外れだが、そこには多くの場合、中国側の口に出せない本音が隠されている。つまり八つ当たりなのだ。この批判もまさに八つ当たりとしか言いようがない。では本当の不満は誰に向けられたものなのか?実はロシアである。

16日、中国の情報収集機が日本の領空に接近する直前にロシア軍の偵察機2機が日本の領空をなめるように北から南に、つまり北方領土から沖縄周辺まで太平洋側を飛行している。
過去にもこうした例があることから明らかな様に、中国軍機はロシア軍機の動きに対応して出動している。この露軍機接近も防衛省は公表しているが、過去の接近の事例と比べると報道上において、非難のトーンが低い。中国から見ると日本がロシアに優しく中国に厳しい様に見えるだろう。

昨今、日露関係は好調だ。今年、安倍総理とプーチン大統領は既に2回会談している。3月にロシアの爆撃機が日本を一周したが、その翌月に安倍総理はプーチンに会って液化天然ガスの輸入促進で合意し、8月に露爆撃機が福岡沖で領空侵犯した翌月、安倍総理はサンクトペテルブルグでまたプーチンと会談している。日中首脳会談が一度も開かれていないのに比べて日露の友好ぶりは歴然としている。
11月2日に初めての日露外務・防衛相会談(2+2)が東京で開催されたことを勘案すれば、日露関係はもはや経済関係をこえた軍事同盟関係にあると見るのが妥当だ。実は16日、中国の公船は尖閣の領海に侵入している。中国船領海侵入の事前情報を掴んだロシアが偵察機を出したと見れば、ロシアが日本を助けて中国を牽制したという戦略的構図が明らかになる。

米国の戦略家ルトワクが日本の外務省に「日本は北方領土を諦めてロシアと結び中国の脅威に対抗せよ」と献策したそうである。確かに外務省のホームページに尖閣、竹島の動画があって北方領土の動画が掲載されないという事実を見れば、外務省がこの献策を受け入れた可能性がある。
だがこの7月に出版した拙著「領土の常識」にも書いたが、領土を諦めてはならない。日本は中国の海洋進出を脅威としロシアとの同盟を必要とするが、長大な国境線で陸軍国・中国と接しているロシアにとってその脅威ははるかに深刻であり、日本がロシアを必要とするよりロシアが日本を必要とする度合ははるかに高いのである。

だとすれば日露軍事同盟の信頼の証として、北方領土の返還を要求することは可能であるし、ロシアにとって中国から沿海州を守る代償として北方4島を明け渡すのは悪い条件ではない筈である

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軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

鍛冶俊樹

1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

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