中露の急接近は、アジア各国から非難を浴び続ける中国と、ウクライナ情勢でアメリカと一部の欧州勢から非難されているロシアが互いの一時的な利益を求めて声をかけあったに過ぎない。中国包囲網を構築しながら最後の仕上げにロシアに訪問した安倍首相を心待ちに大歓迎したのは記憶に新しい。ロシアの中国に対するストレスは日本以上に深刻なのだ。

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第148号 を転載

中露同盟の挫折

一体、中国とロシアの同盟は成立したのか?そんな疑問が方々から挙がり始めた。
筆者の答えはノーである。

5月20日から26日まで、東シナ海で中露海軍合同演習が行われた。筆者は5月10日号の本メルマガで、事前分析として「尖閣周辺で実施するかどうか」が注目点だと指摘した。
実際に挙行されたのは、尖閣から離れた、韓国寄りの海域だった。日米を刺激するのを避けた事になるが、現在の習近平政権の姿勢からは考えられない事で、おそらくプーチンの意向ではなかったかと推察される。

これを裏打ちするのが、参加隻数で、事前に過去最大と喧伝されながら、参加した中露の海軍艦艇は合わせて16隻で、一昨年の25隻を大きく下回るばかりか昨年の19隻をも下回っている。
特に一昨年は今回の東シナ海に程近い黄海で実施されており、ロシアは7隻の艦艇を派遣しているが、今回は6隻であり、ロシアの消極姿勢が見て取れるのである

さて習近平とプーチンの首脳会談であるが、実は軍事関係者が注目していたのは天然ガス売買交渉ではなく、兵器売買である。ロシア製最新鋭戦闘機スホーイ35を中国が購入するという交渉は以前から進んでおり、今回の会談で契約調印に漕ぎ着けると見られていたが、そんな発表は一切なし。
早い話が、ロシアは今迄、「売る、売る」と約束していたスホーイ35を売らない。つまり約束を反故にしたのだ。これでは会談は成功どころか決裂したと見た方がいいではないか。これと関わりがあると見られるのが、5月24日の中国戦闘機の自衛隊機への異常接近事件である。

今迄、中国はこの空域でスクランブルして来なかった。初めての事例であり、だからこそ事件なのだが、中国国防省は翌日、言い訳のコメントを出している。自ら防空識別圏と宣言した以上、そこにスクランブルして言い訳の必要はない筈である。中国外務省が記者会見で「当然の事をしたまでだ」と答えて開き直るのが、今迄の中国の常套手段なのに、軍事担当者がわざわざ言い訳したとなると、自ら悪かったと認めているようなもので奇妙としか言いようがない。

しかも、そのコメントの内容には「中露軍事演習を日本が妨害した」旨が述べられている。これだと中国の防空識別圏だからスクランブルしたのではなく、ロシアの艦隊を日本から守るために中国戦闘機が発進したことになる。
おそらくこれが中国の本音ではないか。異常接近したのはいずれもロシア製のスホーイ27である。中国国産戦闘機があるのに、わざわざロシア製を出して来たのには理由があろう。スホーイ27は日本のF15に対抗できる中国の唯一の機種とされる。

しかしながら日本のF15も改修されており、現段階では日本のF15に中国のスホーイ27は太刀打ちできないと見られる。中国がロシアから購入しようとしていたスホーイ35はスホーイ27のヴァージョンアップであって、現在のF15に太刀打ちできるのである。
してみると中国はロシアに「この様にスクランブルしてロシア軍を守ろうとしているけれど、旧式のスホーイ27では無理でしょう。最新のスホーイ35を売ってください」と哀願している事になろうか?

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

鍛冶俊樹

1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

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