鍛冶俊樹の軍事ジャーナル【8月22日号】 を転載

安倍総理、ジブチへ

安倍総理が24日から中東4か国を訪問すると発表した。中東重視の姿勢は以前から明らかだが、今回注目すべきは訪問国にジブチが含まれている点であろう。なぜなら自衛隊がジブチに駐留しているからだ。

安倍総理は2007年5月にも当時イラクに駐留していた自衛隊を訪問している。最高指揮官が現地を視察するのは当然の責務であり、諸外国の首脳はしばしば戦地に駐留する自国の軍隊の視察・激励に訪れる。

ところが自衛隊は1990年代以降しばしば海外に派遣されているのに、安倍総理以外に海外の自衛隊を訪問した総理はいない。防衛大臣でも殆どいないのではないか。初めて自衛隊に海外派遣を命じたのは1991年の海部総理だ。

彼は湾岸戦争直後のペルシャ湾に海上自衛隊の掃海艇の出動を命じておきながら、見送りにさえ来なかった。掃海艇がフィリピン沖に差し掛かった頃に「諸君の苦労はひと事とは思えない」という趣旨のおよそ最高指揮官とは思えない、ひと事のような電報を掃海艇に送って自衛隊関係者を呆れさせた。「一体誰の命令で出動していると思っているのだ?」

菅直人氏に至っては総理に就任してから、「調べてみたら総理は自衛隊の最高指揮官だったのですね」と、のたまわって自衛隊幹部を仰天させた。「調べてみたら私は皆さんの管理者でした」なんて社長が社員に訓示したら、その会社、相当危ないよ。そう言えばあのとき日本は相当ヤバかったっけ。

安倍総理が歴代総理の中で珍しく最高指揮官としての自覚がお有りなのは、明らかだろうが今回の歴訪はそれだけではあるまい。中近東の情勢は俄かに緊迫化している。集団的自衛権行使について「米軍が攻撃され自衛隊がそれを助けなければならない様な状況は想定しがたい」などという議論はもはや中近東では通用しない。

ジブチに自衛隊の拠点が存在し陸海空3自衛隊が集結している。その周辺で米軍やNATO軍がテロリストに攻撃されて犠牲者が出ているのに自衛隊は助けることすら出来なかったとなれば湾岸戦争以降、日本が果たしてきた国際貢献の実績は一瞬にして失われるばかりか、国際社会から制裁の対象になりかねない。

「安倍総理は急ぎすぎではないか?」そんな批判があるそうだ。だがそんなことはない。国際情勢の変化はいよいよ激しく対応を誤れば滅亡は一瞬でやってくる。総理に幸運あれ!

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夕刊フジでインタビューを受けた。
「脅かされる日本の領土、経済偏重が一因」
http://bit.ly/16PlXHB

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

鍛冶俊樹

1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

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