「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成25(2013)年8月28日 通巻第4007号 を転載

オバマ政権はシリア内戦になぜ介入するのか
最終の標的はイランの核兵器、生物化学兵器。

あれほど日和見主義を続けてきたオバマ政権は、シリア内戦に「人道的理由」などと訳の分からない理由をくっつけてミサイル攻撃を準備している。シリアの軍事拠点にトマホーク・ミサイルが数十発撃ち込まれるだろう。

あたかもコソボ内戦で、セルビアに空爆(これを5000メートル上空の介入という)を開始したクリントン政権のように、いずれブーメランとなって米国の国益さえも阻害する危険性を孕む。
あのとき米軍爆撃機はベオグラードの中国大使館を誤爆(本当に誤爆?)、米国は中国からの猛烈な抗議に陳謝する醜態も演じたが、こんどはダマスカスのロシア大使館を「誤爆」するのかな?

8月27日、ヘーゲル国防長官は「シリアへのミサイル攻撃の準備は整っている」と発言して、俄に中東情勢に緊張がたかまった。
ケリー国務長官は「シリア政府軍が化学兵器を使った証拠がある」。ゆえに「これは倫理の冒涜だ」と踏み込んで「その責任を取らせる」と一方的な主張を繰り返した。

化学兵器はシーア派か、あるいはアサドに反旗を翻すスンニ派の反政府勢力が使った可能性は否定できず、なにしろ中東では(いや世界中でも)、やらせの演出をおこなうことが屡々起きてきた。セルビアのバザール爆破も西側の介入の口実となったが、反対勢力の自作自演だったように。

しかし米国の介入口実としての化学兵器。こうした身勝手な主張は「サダム政権が大量殺戮兵器を造っていた」としてイラク空爆に踏み切り、結果はイラクに大量破壊兵器が発見されず、またイラク戦争の結果は、米国がもっとも懸念したシーア派の台頭をもたらし、とどのつまりはイランに裨益した。

米国の主張に距離を置きながらも同調するのは英国、フランスである。フランスはイラク戦争のおりには米国に同調せず、またアフタニスタンでは兵力を派遣したドイツはいまのところ冷淡である。

英国はしかしながら「化学兵器をシリア政府軍が使ったという明確な証拠はない」として、攻撃に加わるかどうかは議会を緊急招集してきめるとした。
これらの事情からミサイル攻撃の開始は、29日が予定されている。

ときあたかもエジプトではモシール政権が軍事クーデターで潰え、ムバラクが釈放され、イスラエルでは通貨が下落、反対に低迷していた金価格が上昇気配。チュニジアから始まった「アラブの春」は民主化ではなく、リビアが混沌を極めているように中東地域に無秩序をもたらして終わった。

シリアのアサド政権は、じつに評判の悪い政権だが、シーア派過激派とイランの支援を受けたヒズボラのしかける武装闘争に対抗し、軍事鎮圧を続けてきた。背後で支援するのはロシア、武器は北朝鮮からも来ており、シリア難民はトルコ、ヨルダンへ逃げた。

シリア攻撃でアサド政権が潰えることは考えにくいものの、最終的にシーア派の跳梁跋扈をゆすることになれば、米国に近いサウジアラビア、クエート、UEAなど湾岸諸国、つまりスンニ派穏健派の国々が失望する。米国のディレンマである。

 


 

宮崎正弘

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