かつて北朝鮮の核実験が行われた直後、中川昭一議員が「日本も核武装の論議ぐらいはしていいのではないか」といい、直後に米国のライス国務長官が来日し、日本に冷静を呼びかけたことがあった。中川氏の個人的な意見であったにせよ、日本がはじめて独自に核抑止力を発したときだ。この「覚悟」こそが外交の刀となることを思い知った。

いま米国では日本の核武装が論じられている。日本の核武装を最も恐れるのは中国だ。北朝鮮の核開発に対応できない米国が、中国を協力させるために発したカードが「日本の核武装」。それが嫌なら北朝鮮に対して圧力をかけろ、ということだろうか。

日本の立場においても、米国の覇権に陰りが見え始めてくれば、憲法改正のみならず独自の核武装も視野に国防を整える必要に駆られる。米国議会が「日本の核武装」を論じた背景には、日本に先を越される前に先手を打っておかねばならない米国内事情も重なったのだろう。

核アレルギーの強い日本だが、いつかそれを克服しいなければ国を守ることすらできなくなる。激変していく世界情勢のなかにあることを自覚し、国や暮らしを守るために自分たちがどうあるべきか、改めて考えておきたい。

JB PRESS 2013.03.13 より一部抜粋
米国上院が日本の核武装を論じた
北朝鮮の核兵器開発への対抗策として浮上

米国連邦議会の上院外交委員会で「日本の核武装」が主要な論題となった。熱っぽい討論が繰り広げられた。この展開はこれまでの日米関係の常識では想像もできなかった事態である。

この舞台は上院外交委員会全体が開いた「米国の対北朝鮮政策」と題する公聴会だった。

この公聴会はタイトル通り、長距離弾道ミサイルの発射や核兵器の爆発の実験を断行し続ける北朝鮮に米国はどう対処すべきかが討議の主題だった。その流れの中で「日本の核武装」というテーマが再三再四、論じられたのである。

その論議の趣旨を最初に総括すると、以下のようになる。

「米国は北朝鮮の核武装、特に核弾頭の長距離弾道ミサイルへの装備をなんとしてでも防ぐべきだ。だがこれまでの交渉も対話も圧力も制裁も効果がなかった。いまや北朝鮮の核武装を実際に非軍事的な手段で阻止できる力を持つのは中国だけである。

その中国がいま最も恐れるのは日本の核武装だ。だから日本の核武装というシナリオを中国に提示すれば、中国は北朝鮮の核武装を真剣になって止めるだろう。

その一方、北朝鮮が核兵器の保有国として国際的にも認知されるようになると、日本側で核武装への動きが起きかねない。米国政府は核拡散防止条約(NPT)の主唱者でもあり、日本の核兵器保有には反対だが、北の核武装が公然たる現実となった場合には、日本が核を持つ可能性も改めて米側で論議すべきだろう」

北朝鮮というすぐ近くの無法国家が日本や米国への敵視政策を取りながら、核弾頭ミサイルの開発へと驀進している。米国の政府や議会がその核兵器の無法国家への拡散を必死で阻止しようとしながら思うにまかせず、その事態が深刻になる中で、北朝鮮の核武装への阻止の手段、あるいは抑止の手段として日本の核武装という想定を語る。これまた無視のできない現実なのである。

前ブッシュ政権の国務次官として軍備管理などを担当し、北朝鮮の核問題にも深く関わっていたジョセフ氏が答えた。

「私自身の体験では中国が北朝鮮に対する態度を大きく変えたのは、2006年10月に北朝鮮が最初の核実験を断行した直後でした。この実験は米国にも東アジア全体にも大きなショックを与えました。

私は当時のライス国務長官に同行し、まず日本を訪れ、当時の安倍(晋三)首相や麻生(太郎)外相と会談しました。その時、安倍首相らは米国の日本に対する核抑止の誓約を再確認することを求めました。米側は応じました。しかしその後、すぐに北京を訪れると中国側はまず最初にその日本への核抑止の再確認に対する感謝の意を述べたのです。そして米側の要望に応じて、北朝鮮に強い態度を見せました。

中国は日本の独自の核武装の可能性を心配していたのです。しかし米国が従来の日本への核のカサを再確認したことで、日本独自の核開発はないと判断し、それを喜んだのです。その時、中国は初めて北朝鮮への国連の制裁決議に同意しました。それほど中国は日本の核武装という展望を嫌っているのです」

マーフィー議員がジョセフ氏に質問した。

「日本が現在の政策を変え、米国の核のカサから離脱して、独自の核武装能力を開発するという可能性はあると思いますか」

ジョセフ氏が答える。

「はい、議員、私はあると思います。それはもし米国が北朝鮮の核の扱いに失敗し、同盟国への核抑止の誓約の明確な宣言を履行せず、ミサイル防衛も十分に構築しないというふうになれば、日本は長年の核アレルギーを乗り越えて、独自の核による防御策を取るだろう、ということです」

以上が上院外交委員会の公聴会で出た「日本の核武装」についての言葉のほぼすべてである。そのやり取りには、北朝鮮の核武装に始まるいくつかの事態が起きれば、日本は独自でも核武装を真剣に考え、実際にそのための手段に着手する、という見解に集約できるだろう。日本自身が核武装をたとえ望まなくても、中国に対する外交カードとしては使ってほしい、という期待でもあろう。

日本を取り囲む東アジアの核の現実はこんなところまで進んでしまったのである。