~誰よりも中国を知る男が、日本人のために伝える中国人考~
石平(せきへい)のチャイナウォッチ
2011.07.22 No.131号を転載

「外宣工作」に用心せよ!

中国政府の公式用語に「外宣工作(対外宣伝工作)」というものがある。
日本でいう「対外広報」にあたるが、中国では、党の直接指導下で一種の国家戦略として展開されるような外国・外国人向けの宣伝活動を指している。

外宣工作の総元締めは党中央対外宣伝弁公室である。
その責任者である王晨弁公室主任は今月5日、共産党機関誌の『求是』に寄稿して「外宣工作」について論じているが、その中で彼はいつものように、「外宣は党と国家にとっての大局的・戦略的工作である」と述べ、外宣工作の重要性を強調している。

こうした「戦略的」重要工作の一例を挙げると、今月5日、党中央外宣弁公室は30カ国の駐中国大使館の武官六十数名を招いて「チベット平和解放60周年業績展示会」を観覧させたことがある。
それは言うまでもなく、中国のチベットに対する「植民地支配」を対外的に正当化するための工作だが、そこに隠されている党と政府の「戦略的」意図は実に明確である。

中央だけでなく、省や県などの地方行政区でも外宣工作は展開されている。
去る6月3日、雲南省水富県の共産党宣伝部が会議を開いて「わが水富県の外宣工作の強化」を訴えたが、内陸奥部のこの「田舎町」が一体どのような「外宣工作」をやっているのかというと、それは主に、当該地域に訪問してくる外国人を対象にしているという。
当然、全国の地方政府は同じことをやっているから、理論的には中国各地を訪問している外国人のすべてが、その「外宣工作」の対象となっているはずである。

外宣工作の中心部分は海外で行われている。
日本でおなじみの孔子学院も実は、こうした外宣工作の一環であろう。
2009年7月31日に北京の孔子学院本部で開かれた会合で、中国教育部の●平副部長(副大臣)は「孔子学院はわが国の外交と外宣工作の重要なる一部分である」と明言したことからも、「孔子学院」たるものの性格がよく分かってくる。

外国での外宣工作となると、海外に住む中国人たちが協力者として参加する。
2010年3月、中国政治協商会議が北京で開かれた際、政府は海外に住む一部の中国人を「特別代表」として会議へ招待したが、彼らは会議の中で、国家の展開する対外宣伝工作に対して多くの「建設的な提言」を行ったと報じられている。

さらに驚くべきことに、党・国家と連携して、中国の人民解放軍も独自の対外宣伝工作を展開している。
近年、解放軍は年に一度「全軍対外宣伝工作シンポジウム」を開くことになっているが、2010年9月に開かれた直近のシンポでは、「対外的に解放軍の良いイメージをいかに作り出すのか」が中心テーマとなったという。
東シナ海や南シナ海での中国軍の暴走が周辺国の警戒感を高めた中で、軍がソフトなイメージを打ち出すことによってそれを和らげる必要があるのであろう。

とにかく今の中国は、未曽有の勢いで対外的拡張を推し進めながら、孔子様や外国在住の中国人たちを巻き込んだ形で、中央と地方と軍による「挙国体制」の外宣工作を世界的に展開している。いわば「用兵の道は、心を攻むるを上となす」という諸葛孔明流の謀略マインドが、見事に貫徹されているのである。

当然、日本も含めた周辺国の政府と国民は、今でも何らかの形でこのような下心見え見えの外宣工作にさらされているから、われわれとしては、それに引っかからないよう、常に用心しておくべきであろう。

●=赤におおざと

(石 平)

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