中国が「南京大虐殺文書」を世界記憶遺産に登録させたことによって、世界中の学術研究の対象となる。それによって長年使い続けてきたプロパガンダの虚構が白昼のもとにさらされると指摘する鍛冶俊樹さん。いつもながら明快な分析です。

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル【10月24日号】を転載

日中歴史戦、最終ラウンド

中国が9日に「南京大虐殺文書」をユネスコの世界記憶遺産に登録させたのに対して、日本政府は直ちに遺憾の意を表明した。ところが22日、ニューヨークの国連の軍縮委員会で中国の傳聰軍大使が「旧日本軍が化学兵器や人体実験で多数の中国人を殺害した」という、これまた捏造事件を持ち出して日本を非難した。

この大使は軍服を着用していることから、中国人民解放軍の意図を体している事は明らかで、20日にも同委員会で、日本が核武装を画策していると核戦略関連で対日非難をしている。旧日本軍の化学兵器使用といい日本の核武装といい、これらの対日非難は如何にも唐突で取って付けたような印象は免れない。一体、何故この時期に何の脈絡もないような対日非難を狂った様に繰り返すのか?

菅官房長官が13日に「ユネスコへの拠出金停止」を言及したのに対して、中国外務省の女性報道官はその日の内に、日本が「ユネスコを公然と脅迫する言論には驚かされた」とコメントした。

外交的脅迫がお家芸の中国外務省がこんな弱音を吐くぐらい、中国は日本の反応に動揺した訳だ。傳大使の狂った様な対日非難もこの動揺の顕われとしか考えられない。おそらく中国内部では今回のユネスコ登録は、致命的な失敗だったと認識されている筈である。

というのも「南京大虐殺」はもともと対日宣伝工作として捏造されたものであり、学術的に研究されれば戦時プロパガンダだと直ぐにばれてしまう。そこで学術研究の対象にしないという政治的な合意が国際的になされてきた。

ところが今年、日本の教科書検定で南京事件を記述しない歴史教科書(自由社)が合格した。不安を感じた中国は、国連において政治的に大虐殺を認定させる意図をもって、遺産登録に踏み切ったのである。

だが、いやしくも国連の公式機関に資料が登録された以上、当然その資料は学術研究の対象となってしまう。もともと中国には学問の自由が存在しないから、この事態に立ち至るのを予見できなかったのだ。

日本の研究者から、今後は登録された資料を学術的に論破していくと聞かされて、中国の情報機関は初めて致命的な失敗に気付いた。習近平主席はロンドンで日本の残虐性に触れたが、遺産登録されたばかりの「南京大虐殺」には言及しなかった。論点を「南京大虐殺」から如何にそらすかに腐心しているのは明らかだ。

日中歴史戦は最終ラウンドに入ったと言えるだろう。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

鍛冶俊樹

1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、第1回読売論壇新人賞受賞。2011年、メルマ!ガ オブ ザイヤー受賞。2012年、著書「国防の常識」第7章を抜粋した論文「文化防衛と文明の衝突」が第5回「真の近現代史観」懸賞論文に入賞。
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