日米印の共同演習がインド洋で展開している中、安倍首相は米海軍横須賀基地に配備された原子力空母「ロナルド・レーガン」に乗り込み、艦内を視察した。これは安全保障関連法の成立によって日米同盟の結束が更に強化されたことを印象付けた。
そして自衛隊観艦式で行った訓示では、16年前に航空自衛隊の戦闘機2機が日本領空に近づく国籍不明の飛行機を確認するため緊急発進し、その後1機が行方不明になったことに触れた。当時は攻撃されても反撃する交戦規定さえなかった。
安倍政権が強く推進した安全保障関連法の成立は、こうした根底的な不備を正さなければ国防の任務に就く自衛隊員の生命が危ういままで、如いては領土領海、国家国民を守ることさえできないという強い危機感によるものだ。

いつもながら鍛冶俊樹さんがとてもわかりやすく解説しています。
鍛冶俊樹の軍事ジャーナル【10月19日号】を転載

決戦は南シナ海

安倍総理は昨日、自衛隊観艦式で訓示したが、その中で16年前の、ある事件に言及した。

1999年8月15日早朝、航空自衛隊のF4ファントム戦闘機2機が日本領空に国籍不明の飛行機が接近中との報を受け、九州西方海上に緊急発進したが、うち1機が行方不明となった。当時、中国軍の最新戦闘機スホーイ27によって撃墜されたのではないかとの未確認情報があった。

もし、そんな事があれば日本政府は当然何らかの反応を示す筈と読者はお思いだろう。だが当時の自衛隊は交戦規定さえ整備されておらず、国籍不明機に攻撃されたとしても反撃すら儘ならない事は中国軍もよく知っていた。しかもこの時の九州西方沖は天候が極めて悪く、視界不良だった。

緊急発進した自衛隊機は国籍不明機を目視で確認することを任務とするから、視界不良の状況下でかなり接近した事は間違いない。そこで仮に撃墜されたとしても僚機がそれを目視確認することすら困難な状況だった。

天候不良により操縦不能に陥って墜落したと報告されたが、空自関係者の間ではその後も撃墜説は根強く囁かれた。なぜ撃墜説が払拭されなかったのかと言えば、仮に攻撃されても反撃すらできない法的状況が背景にあったためである。

攻撃されたら直ちに反撃する以外に有効な手段はない。攻撃は瞬時であり、相手が攻撃してきたと言う確かな証拠を上司に提出しようとしているうちに殲滅されてしまうのが戦争の常識である。

だが重要なのは、安倍総理が敢えて16年前のこの事件に言及した点だ。事件は8月15日であり、この10月ではない。犠牲になったのは空自であって、総理が訓示をした海自ではない。では何故、この日、この場所でこの事件に言及したのか?

それは中国の脅威を明確に意識しているからだ。昨日、観艦式に参加した米空母ロナルド・レーガンに安倍総理は乗艦した。現職の総理が米空母に乗艦するのは初めてである。レーガンはこの後、韓国との共同訓練に参加する。
インド洋では日米印の共同演習が展開中で、米空母セオドア・ルーズベルトが参加している。おそらくこの2隻の米空母はその後、南シナ海に向かうのではないか。もしそうなれば海上自衛隊も同行することになろう。
中国外務省が、南シナ海に中国が建設した人工島への接近を許さないとヒステリックに反発している、正にその海域である。

総理は訓示をこう結んでいる。
「隊員の諸君。諸君の前には、これからも荒れ狂う海が待ち構えているに違いない。しかし、諸君の後ろには、常に諸君を信頼し、諸君を頼りにする日本国民がいます。私と日本国民は、全国25万人の自衛隊と共にある。その誇りと自信を胸に、それぞれの持ち場において、自衛隊の果たすべき役割を全うしてください。大いに期待しています。」

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

鍛冶俊樹

1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、第1回読売論壇新人賞受賞。2011年、メルマガオブザイヤー受賞。2012年、著書「国防の常識」第7章を抜粋した論文「文化防衛と文明の衝突」が第5回「真の近現代史観」懸賞論文に入賞。
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