鍛冶俊樹の軍事ジャーナル【5月1日号】 を転載

中国艦隊、大隅海峡を通過

昨日、中国海軍の軍艦等3隻が鹿児島の大隅海峡を無断で通過した。新聞などでは「公海なので国際法上の問題はない」と書いているが、それでは何故ニュースになるのか一般読者には分からないだろう。

問題は国際法上ではなく、安全保障上にあるのである。例えて言えば、家の周りを不審な人物がうろうろして様子を伺っている様なものだ。法律に触れてはいないが油断は禁物、世田谷一家殺害事件のような事だってある。迷わず警察に通報するのが正解だ。

ところが国際社会には警察がない。警察がいないとなれば家の中で怯えているか、さもなくば木刀の一本も持って外に出て、その不審な人物に「お前ここで何してる?」と質すほかあるまい。この木刀の役割を果たすのが軍隊なのである。

今回、自衛隊は中国艦隊を追尾、警戒した。一応軍隊の役割を果たした訳だが、もっと強気の軍隊なら軍艦が行く手を遮断しただろう。「中国さんがどこへ行こうと、公海だから自由だけど、たまたま勝ち合っちゃたんだよね。ここは日本の排他的経済水域で日本の艦船がどこにいようとこちらの自由。先に断っておいてくれないと、通せんぼすることになるよ」

さて中国がこの秋にも日本の領土である尖閣諸島を占拠する計画を立てているらしい。米国は尖閣を日米安保の対象としているから、この計画の実現性は薄いと見られていたのだが、ここにきて米国の雲行きも怪しくなってきたとの情報が出てきた。(例えば山村明義氏のブログ:)
http://ameblo.jp/kamiyononihon/entry-11236238343.html

つまり中国が尖閣を占拠しても、米国がこれを黙認するというシナリオがワシントンで秘かに検討されているという。大統領選挙の直前に中国とトラブルが起きれば、オバマの対中政策の失敗を野党・共和党候補から叩かれることになり再選が困難になるとの政治的思惑が背景にあるようだ。

石原都知事の尖閣買収計画はこうした米国の動きを牽制したものだとの説もある。野田総理は訪米してオバマ大統領と待望の日米首脳会談に臨んだが、共同声明を見る限り何の成果もなく失敗と断ぜざるを得ない。日米関係が疎遠になれば米中関係が緊密化するのは歴史の示す法則なのである。

 

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軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。
<著作>
戦争の常識 (文春新書)
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