やはり政治(軍事)と経済は一体なのだ。
経済問題は別だという人がいるが、冷静に考えてほしい。

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル
第36号(11月10日) を転載

エシュロンとTPP

エシュロンとは米国を中心とした世界的な通信傍受網のことで、1990年代に欧州議会で大問題となった諜報組織である。当時の国際通信は衛星通信が主流であったから通信衛星の傍受を主としていたが、今日ではインターネットの通信傍受にシフトしていると見られる。

エシュロンは冷戦期にはソ連を標的にしており、軍事のみならず経済封じ込めでも威力を発揮し、事実上ソ連を崩壊させたのはエシュロンだと言われている。

そのエシュロンが90年代新たな標的にしたのが日本経済と欧州経済であった。欧州ではフランスが米国からの農業の関税撤廃要求を拒否した頃から通貨危機が頻発するようになった。経済情報を通信傍受してヘッジファンドに流してやれば通貨危機を意図的に惹き起す事など訳もない。エシュロンの仕業である事は明らかであり、欧州議会でエシュロンが問題となったのはそのためだ。

たまりかねた欧州は窮余の一策として統一通貨ユーロの導入を強行するに至る。金融と財政が切り離されたままでユーロが見切り発車したのは米国からの攻撃をしのぐためであったのだ。

日本では、米国の法外な市場開放要求を拒否するや、異常な円高が進行し経済不況が深刻化し金融機関が相次いで倒産する事態となった。金融政策失敗の責任を負わされる形で大蔵省は財務省と金融庁に解体されたが、この「日本経済の司令塔である」大蔵省を解体するシナリオは90年代初頭に既にワシントンでは半ば公然と語られていた。

「米情報機関が日米経済交渉に当たっていた日本の経済官僚の通信を傍受した」とニューヨークタイムズが報じたことからも分かるように、エシュロンが関与していた事は明らかであったが、日本政府は何らの対応策も採らず只屈服したのである。

エシュロンが日欧を標的にしなくなったのは、2001年9月11日にテロからだ。アフガニスタン戦争が始まり日欧はこれに協力したから、エシュロンは標的を中央アジアと中東に移したのだ。

だがアフガニスタンからの米軍の撤収が目に見えて来るにつれ、エシュロンは再び日欧を標的に設定したようだ。現在の欧州の経済危機の発端はイタリアの対岸チュニジアの通貨危機だった。

これによりチュニジア、リビア、エジプトの政権が次々に崩壊し、リビアの石油供給が止まるや欧州の北海油田の原油価格が米国の原油価格より割高となり、ギリシャ危機が爆発した。米国はリビアへの陸上兵力派兵を拒否し、欧州は国防費の増額を余儀なくされ経済危機に追い打ちをかけた。米国がユーロ解体を目論んでいる事は明らかだろう。

時を同じくして米国は日本にTPP参加を求めだした。日本には市場開放を要求し円高が進行し欧州は通貨危機に見舞われる。まるで90年代の再来ではないか。

 
軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

書籍
戦争の常識 (文春新書)
総図解 よくわかる第二次世界大戦
 
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