鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第63号(6月17日) を転載

尖閣諸島・日中もし戦わば

チャンネル桜の討論番組「尖閣諸島・日中もし戦わば」に出演した。3部構成、各55分、計2時間45分の番組だが、日中尖閣戦争を様々な角度から討論した。
【討論!】尖閣諸島・日中もし戦わば[桜H24/6/9]

各専門家が穏やかに討論しており、一見その所論は一致しているかに見えるが、実は重点の置き方が各人微妙に異なっており、特に第3部になると違いが鮮明になる。

小生なりの結論をシミュレーション化して提示しておくと

  1. もし中国が尖閣奪取を決断した場合、中国は偽装漁民などによる尖閣諸島不法占拠に出る公算が高い。
  2. もし、日本の警察がこれを強制排除しようとすれば、中国の正規軍が漁民等中国人の保護を口実にして侵攻する可能性がある。
  3. ここで現日本政府が自衛隊を派遣できるかどうかが焦点となる。もし派遣をためらえば、不法占拠は恒久化し、尖閣は事実上中国領となる。
  4. もし自衛隊を派遣すれば、正規戦が勃発する可能性がある。通常戦力においては自衛隊が有利であるが、中国人民解放軍が自衛隊に敗れれば、軍の威信は失墜する。反日は中国共産党の存在意義そのものとなっており、中国が日本に負けたとなれば中国共産党の権威は地に墜ち中華人民共和国の滅亡に直結しかねない。
  5. 核兵器を持つ中国が核兵器を使用せずして滅亡するとは考えられない。もし自衛隊に核兵器があれば、これにより中国の核使用は抑止されるが、それがない以上、核兵器が使用される可能性がある。
  6. 中国の核兵器先制使用に対し、報復が可能なのは米軍だけであるが、米軍がこれを為し得るかは一つの焦点となる。日本の無人島を守るために米中核戦争を米国が決意し得るかは定かではない。

従って米国は米中核戦争の勃発を恐れ、日本政府に自衛隊の尖閣派遣を思い止まる様に圧力を掛ける可能性がある。すなわち3で尖閣は事実上中国領となる可能性がある。ただし上記は最悪のシナリオだけをプロットしており、例えば4の段階で通常戦力における不利を認識した中国軍が撤退する可能性もある。

この最悪のシナリオを分析して見れば、日本が核武装をしていない事が致命傷になることは明らかであろう。また尖閣が無人島のまま放置されていることも、この島々を守りにくくしている。
またこのシミュレーションではサイバー戦争は考慮されていないが、これは討論番組でもまったく触れられなかったので付け加えておく。

近年、中国軍のサイバー攻撃技術の向上は目を見張るものがあり、一方自衛隊は防御はともかくサイバー攻撃能力は皆無である。

従って?の段階で中国軍のサイバー攻撃で自衛隊の一部もしくは全部が行動不能となる可能性がある。つまりサイバー戦争まで含めると自衛隊の通常戦力が中国軍に対して優位とは言えなくなる。

もちろんこの場合も米軍のサイバー攻撃能力に期待する向きもある。つまり米軍のサイバー攻撃により中国軍の動きを同様に封じてしまえば、いい訳だ。

ただしサイバー攻撃は両刃の剣で、攻撃を受けた中国軍は内容を分析して瞬く間に同様の能力を身に付けてしまう。つまり日本の尖閣を守るために米軍は貴重なサイバー技術を中国に売り渡す事になるわけで、果たして米国がそこまでしてくれるかは、やはり一つの焦点となる。


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

リンク
メルマガ:鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

<著作>
戦争の常識 (文春新書)
エシュロンと情報戦争 (文春新書)
総図解 よくわかる第二次世界大戦―写真とイラストで歴史の流れと人物・事件が一気に読める