支那の株価暴落の影響を受けたのか、日米のみならず近隣国の株価が大ブレした。支那は人治国家で情報の信用性など無縁な国。株や先物相場などのマネーゲームは胴元が取り仕切っているのはいうまでもない。政治経済、人権や環境問題の背後には政治的暗闘があるとみたほうが現実的で理解しやすい。
ジャーナリストの福島香織さん、いつもながら興味深い視点でとてもわかりやすく解説しています。
中国の株価乱高下は権力闘争なのか?
習近平 VS 江沢民、そして泣くのは人民 - 福島香織 -
勝ち逃げできるのはほんの一握り
中国の株式市場というのは、自由主義経済の国々とは大きく異なる。一つは個人投資家が非常に多い。株式投資人口9000万人のうち8割以上が個人投資家である。しかも、個人投資家には二種類ある。一般庶民と、政治的背景のある民間人である。政治的背景のある民間人とは、温州仕手集団の億万長者たちや、党中央幹部や政治局員、解放軍幹部の子弟、親族たちである。彼らは、株価に影響する政策の変更や政府主導の開発計画などの情報を公表前にキャッチできるので、ほぼ必ず株で利益を得ることができる。
官製株バブル、5月末から大暴落
どんなに業績の悪い企業も一様に株価が上がっており、明らかに不正常な現象である。地方の工場地帯を歩けば、一目瞭然の景気後退。工場閉鎖や縮小、給与や経済保障金をめぐるトラブル、理財商品の償還不履行騒ぎなどが毎日のようにニュースとなっている。
この官製株バブルが崩壊しはじめたのが5月28日。さらに6月19日の週も、6月25日の週もと大暴落が続き、6月半ばからみると28%の下落を記録した。
習近平政権の狼狽ぶりをみれば、この株価暴落は官製誘導ではない。政府はIPOを再度停止し、信用取引規制を緩和させて、追加証拠金を入れるための株式換金売りを食い止めようとした。さらには21社の証券会社に株価を下支えするため1200億元を上場投資信託に投資させる異例の対応策を発表するまでになった。
ところで、習近平政権の鉄板に見えた株高誘導政策がなぜ急に、破たんしたのか。
暴落の背景に、習 VS 江沢民
ここで、いかにもチャイナ・ゴシップ的な一つの噂を紹介しよう。今回の株価暴落の背後には習近平と江沢民派の権力闘争があるという説である。
ネタ元が香港蘋果日報なので、注意しつつ読んでほしい。5月28日の株価暴落は、中国国有投資会社・中央滙金が2008年以来保持していた四大銀行株を35億元分売ったことが一つのきっかけと言われている。5月29日、中央滙金の取締役社長の解植春の解任が発表されたため、いろいろと憶測が飛んだ。解植春自身はすでに2月に辞意を伝えており、ようやく承認されたので、株価暴落とは関係ない、と説明していたが。
ネット、メディア上で論戦
さらに、6月15日、中央財経大学中国企業研究センター主任の劉妹威が微博上の発言に「楽視ネット(中国の動画サイト)の会長・賈躍亭はわずか3日で25億元分の株を売った」という一文があった。楽視が令計画(失脚済)の弟・令完成から巨額投資を受けており、賈躍亭と令完成が昵懇であったことは知られている。
中国株式市場の、一般庶民でない個人投資家というのは、習近平の反腐敗キャンペーンでターゲットになっている人たちの親族、友人が多いことは確かである。
中央滙金の「四大銀株売り」が、習近平の株高誘導政策に対する挑発であったことは、実はその後、証券当局と滙金幹部のメディア上の論争からもうかがえる。
大紀元が上手く整理していたので、参考にすると、6月12日、証券監督管理委員会主席の蕭鋼は中央党校での講義で、「改革を推し進めていく論理はすでに成立している。市場を支えるのは銭が足りないことではない。実態経済が悪いのに株式市場がバブルであるという言い方は道理がかなっていない。株式市場が強気なのは中国が7%成長を維持できるという予測を基礎にしている」などと発言。
これに対し、中央滙金の副会長である李剣閣が「改革の推進が市場の強気の理由というのは、困惑させられる。7%成長が市場の強気の根拠というなら、10%成長の時の株価はどうだったか。もし、7%成長が失速したら、市場の強気は維持できるのか?」とメディア上で批判していた。
この李剣閣の反論について、中国政法大学資本金融研究院院長の劉紀鵬が6月30日に「国家の牛(強気)を屠って滙金は何がしたいのか」と題する論評を発表。
今の市場の乱高下の裏に、政治的対立があることをほのめかせた。
割を食うのはいつも普通の人民
中国株式市場の乱高下が、果たして江沢民派の習近平政権への反撃なのか、私には今のところ自信をもって言える根拠はない。ただ、これが社会不安につながり、すでに地を這うような中国経済にさらなるとどめをさすことになると、2017年の党大会に向けた習近平の権力基盤強化にも影響が出てくるだろう。
そして習近平の株高誘導政策に結果的に踊らされた普通の個人投資家たちには、全財産を失い、借金まで抱えて、自暴自棄になり、自殺に走る人たちもいるそうだ。権力闘争で割を食うのは、いつでも、普通の人民なのである。 <全文はこちら—>
福島 香織(ふくしま かおり)
ジャーナリスト
奈良市出身。大阪大学文学部卒業後、産経新聞社大阪本社に入社。1998年に上海・復旦大学に1年間、語学留学。2001年に香港支局長、2002年春より2008年秋まで中国総局特派員として北京に駐在。2009年11月末に退社後、フリー記者として取材、執筆を開始。
テーマは「中国という国の解剖」。社会、文化、政治、経済など多角的な取材を通じて”近くて遠い隣の大国”との付き合い方を考える。
主な著書
『本当は日本が大好きな中国人 (朝日新書)』
『中国人がタブーにする中国経済の真実』
『中国のマスゴミ ジャーナリズムの挫折と目覚め 』
『潜入ルポ 中国の女』
『中国美女の正体 』(共著)
『危ない中国 点撃! 福島香織の「北京趣聞博客」 』
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Twitter: 福島香織 @kaori0516kaori
福島 香織の「チャイナ・ゴシップス」