メディアによる安倍政権叩きは、ややテンションが下がったように装いながらも現在進行中だ。アルジェリアのテロ事件に対する安倍首相の発言は、各社の方針で加工して報じているようだ。新聞やテレビの見出しを読み続けていると優柔不断な政府のようにみえてくる。これでは真意が伝わらない。安倍首相がfacebookやメルマガを多用するのも当然だろう。

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第92号(1月21日) を転載

反テロ共同宣言!

安倍総理は18日、訪問先のインドネシアでユドヨノ大統領と会談後、記者会見でアルジェリアでのテロについて「卑劣な行為によって多数の犠牲者が出たことは断じて許されず、非難されるべきだと(大統領と)完全に一致した。」「テロと断固として戦うことで完全に一致した」と述べた。
事実上、小誌が予期した通りの反テロ共同宣言と言っていい。その後、国連安保理がテロ非難声明を出し翌日、オバマ大統領もテロを非難した声明を出したから、この共同宣言はテロに対する国際的な非難の先鞭をつけた形となった。

ところが日本のメディアは「反テロ共同宣言」という括りをしていない。「テロと断固戦う」という見出しが精々で、中には「テロと戦う」という文言を報道していない新聞すらある。しかし、それでは「人命優先、軍事作戦中止」をアルジェリアに申し入れた安倍政権の真意が分からなくなってしまう。
安倍政権は決して「テロリストに妥協せよ」と言っていた訳ではない。早急な作戦行動を控えるよう要請していたのであり、機を見て作戦を実施するよう求めていたことが、「テロと断固戦う」という文言から理解できるのである。

おそらく安倍総理をはじめ自民党首脳にはペルー人質事件の記憶があったであろう。1996年12月にペルーの日本大使館にテロリストが侵入し、日本大使とペルー政府要人など多数を人質にして立てこもった。ペルー政府はテロリストと粘り強く交渉を重ねながら情報を収集し、127日目に軍事作戦を決行し殆どの人質を無事解放した。
安倍政権にはそうした含意があった上での作戦中止要請であっただろう。アルジェリア軍は作戦を早急に決行し、それには止む得ない状況があったものと推測されるが、日本としてもテロリストと戦う覚悟があった点は、今後国際社会で反テロをアピールするに当たっても重要なのである。

今回のテロリスト達はリビアから武器を手に入れていた。リビアは2011年反乱が起きて当時のカダフィー政権が崩壊した。米国は陸上兵力を送らず、CIAによる秘密作戦によりカダフィー政権を崩壊に追いやったのであるが、軍事占領しなかったためリビア軍が崩壊して武器が国外に流出することを防げなかったのである。

その意味では米国の対リビア政策の失敗が今回の事件の背景にあると言える。しかもこれは単なる過去形では語れない。というのも現在進行中のシリアの内戦に直接かかわって来るのだ。
シリアにも米国は派兵することはせず、CIAの秘密作戦によりアサド政権を崩壊させようとしている。しかしリビアと同様大量の武器がテロリストに渡る可能性がある。しかもそれには化学兵器つまり大量破壊兵器が含まれる。
おそらく米国の対シリア政策は変更を迫られるであろう。軍事介入の検討も始めるかも知れない。折しもヒラリー・クリントン国務長官の引退である。アジア重視のアジア太平洋戦略はヒラリーが策定したものだ。アジア重視が見直されて再びヨーロッパ重視となれば、米国の東アジア軍事戦略見直しとなる。

安倍総理のインドネシアで表明した外交5原則とどう整合をつけるか、総理の2月訪米は重要な意味を帯びそうである。


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

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