アルジェリアで日本人を含む数十名が過激派によって拘束された。安倍総理は外遊中だが、麻生副総理を中心に対策本部が設置された。この一連の素早さにまず安心した。

安倍内閣の防衛・危機管理体制は近隣の国々だけではなく、中東有事に即応できる顔ぶれがそろっている。その筆頭が麻生副総理だ。中東における過去の外交をみても、紛争が絶えない地域において、日本の政治家でその仲裁役を担えるのは現役では麻生太郎氏だけだろう。

事件は他国であるため直接なすすべはないが、人質の生命を救うためとはいえ暴力に屈することだけは避けてほしい。ここでテロに屈したら、今後同様の事件を誘発することになる。

鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第91号 を転載

安倍総理よ、危機突破せよ!

アルジェリアで日本人、米国人、英国人、フランス人を含む数十人がイスラム過激派に拘束された。安倍危機突破内閣の初仕事となるが、安倍総理は夫人とともに東南アジア歴訪の最中、危機とはこういうときに起きるものなのである。
当然、「のんびり外遊などしている場合か、すぐに帰国して陣頭指揮に立て」という批判は出よう。だが、震災の場合と違い、現場は海外である。日本に戻ったからと言って必ずしも現地の状況を掌握しやすくなるとは限らない。

私が注目しているのは歴訪国の最後となるインドネシアである。インドネシアは世界最大のイスラム人口1億7000万を誇るが同時に政教分離が確立した世俗国家であり、イスラム原理主義には反対の立場を明確にしている。

もし安倍総理がインドネシアのユドヨノ大統領と共同で反テロ宣言を発すれば、世界中の穏健なイスラム教徒の共感を集め、イスラム過激派に対しては強い圧力となる。米国のオバマ大統領は少年期をインドネシアで過ごしているから、安倍ユドヨノ反テロ宣言には関心を持つ筈だ。

実は、今回のテロ事件はオバマ政権の対リビア政策が遠因となっている。はっきり言えばオバマ政権の対中東政策の行き詰まりの結果である。従って日本・インドネシアからの新たなアプローチはオバマ政権も歓迎する所だろう。

インドネシアは大東亜戦争で日本軍によって占領された。ところが日本の軍政は現地では大変評判が良く(それまで植民地支配していたオランダがひどすぎたこともある)、日本とインドネシアの間には強い人間関係が形成された。

戦後、昭和33年、当時の岸信介総理はその人間関係を活かすべくインドネシアを訪問し国交樹立した。これが切っ掛けで岸人脈は対イスラム外交の端緒をつかみ、石油危機時代の昭和53年、岸人脈の福田総理はサウジアラビアを訪問し、昭和58年、イラン・イラク戦争でのペルシャ湾危機に際して安倍晋太郎外相はイラクを訪問した。

いうまでもなく故岸信介氏、故安倍晋太郎氏は安倍現総理のそれぞれ祖父、父に当たる。つまり日本の対イスラム外交は欧米と違った歴史をもっており、しかも有効に機能する可能性を持っているのである。


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

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