鍛冶俊樹の軍事ジャーナル  第85号 を転載

中国と北朝鮮はグル

北朝鮮が長距離弾道ミサイル発射を予告した。マスコミ報道では、「中国も強く反対」となっているが本当にそうか?「発射予告の前日、中国の高官が北朝鮮を訪問し発射中止を迫ったと見られる」などと報道されているが、一体誰がそう見ているのか?どうせトンチキな北朝鮮専門家とかヘンテコな中国評論家の類であろう。

中国は北朝鮮の最大のスポンサーである。そのスポンサーが中止を進言して、その翌日に実施を公表すれば、ただちに支援打ち切りになるに決まっている。マスコミならスポンサーの圧力はよく御存じだろう。

中国の高官が行って、その翌日に発射を公表したのなら、基本的に中国が発射を承認したと見るのが普通だろう。そもそも中国は反対する理由がない。中国がときに反対に動くのは米国から依頼された場合だけである。つまり米中交渉の取引材料としてのみ中国は、北朝鮮への影響力を使用するのである。

ところが今回、米国は発射の兆候を認識してもまったく動かなかった。おそらくオバマ政権は中東情勢で手一杯なのだ。ならば中国がわざわざ北朝鮮に圧力をかける理由などないのである。

北朝鮮は4月に失敗した時点で再発射を計画したはずで、その段階で12月19日に韓国大統領選があることは分かっていたから、金正日1周忌に縁付けて発射すれば、韓国世論への牽制になると策謀しただろう。
ところが11月中旬に日本の国会は突然解散し12月16日投票と決まった。中国がこれを利用しようと思い立っても不思議はない。つまり日本にタカ派の安倍政権ができることへの牽制である。
1996年に台湾で初めて選挙で総統を選んだが、そのとき中国は台湾海峡にミサイルを撃ち込み民主主義を牽制した。それと同じ構図、同じ戦略である。つまり中国は北朝鮮の発射を止めるどころか、けし掛けていると見た方がいい。

96年台湾総統選では、李登輝が国民の強い支持を得て当選し、台湾の独立意識を高めてしまった。つまり中国の意図とは逆の方向に動いた訳だが、旧弊な共産主義国家の中国や北朝鮮は民主主義を本質的に理解できないので、牽制や脅迫が逆効果を生むなどとは想像もできないらしい。
ちなみに96年にミサイルを撃ち込んだ南京軍区の作戦副部長の蔡英挺は、その後も順調に出世し今回、総参謀部副部長を経て南京軍区司令官に就任している。中国軍部はあのミサイル危機を成功と評価しているわけだ。

まことに危険な連中としか言いようがないが、おかげで今回の選挙の争点が明確になった。中国や北朝鮮の脅迫に屈して敗北主義者を選ぶか、脅迫をはねのけて国防主義者を選ぶかの選挙である。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

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