かねてから問題視されている中国の深刻な社会現象を指摘している。
この充満したガスが、いつどのように爆発するのか。時間の問題だ。

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成24(2012)年6月4日通巻第3671号 を転載

中国農村の「残留児童」は5800万人。職は都会にしかなく
両親は出稼ぎにでて、子供達は異口同音に「三年間ほど会っていない」

胡錦涛は北京市内にある「少年宮」を訪問した。教育現場の視察というふれ込み、少年達を慰問したと中国の報道機関が伝えた(6月1日)。
ところが、大事なことを無視した。

経済の成長、高度工業化にともなって都会に職を求め故郷を離れた農民が夥しいが、都会では子供の戸籍を都市戸籍に変更することが難しく、したがって小学校に就学させることが出来ない。
あげく北京では「私学」、つまりもぐりの小学校が30あったが、閉鎖命令がでた。深センも同様な措置を敢行し、10校を閉鎖した。しかたなく、両親は故郷の祖父祖母のもとに子供らを送り返した。

農村に残留する児童は、じつに5800万人。「この殆どが1-3年もの間、両親の顔を見ていない」(『北京早報』、6月1日)。

温家宝首相が湖南省湘西土にあるミャオ族自治州を訪問したところ、この地区から都会へ職をもとめて出て行った農民が57万人もいることがわかり、「留守児童」(つまり残留児童)が14万人、大きな社会問題となっている事を改めて知らされる。

このような悲惨な状況がうまれるのも共産党の恐怖政治と反作用としての農民暴動、社会不安への懼れからである。つまり北京や上海の大都会で失業者が溢れ、社会擾乱が惹起されることを極度に恐れるあまり、それなら流入した労働者を定住させないためにも、かれらの子供が学校へ行けなくすれば、失業流民は田舎へ戻るだろうという冷酷な計算からである。
なにごとも社会の公正ではなく、都市に住む共産党幹部の安全が最優先されるのである。

上海市の人口は2350万。旧市内の人口だけでも750万人だが、このうちの70%が20歳から34歳という若い移民である。
国家統計局のしらべで、若者移民の44%が製造業に、10%が建設現場で就労し、蟻の巣といわれる簡易ベッドに生活している。生活が豊かになると信じて都会にやってきたが、最貧困生活に喘ぎ、社会保障は受けられず、病気になっても医療保険がない。だからやけくそになる若者も夥しい。
調査によれば、僅か8.6%しか、現在の環境に満足しておらず、また一年に何回も職場を変える労働者が多いのも中国的特徴である。

上海では6歳以下の幼児が39万人いるが、上海戸籍がもらえないため、将来の就学が危ぶまれている。

学校の増設、教員増という計画は存在せず、また15歳から19歳の移民残留の若者が57万人もいるが、上海の高等学校の定員は17万人しかない(数字は英誌『エコノミスト』、2012年6月2日号)。
ごっそりと溢れる若者に怒りがどこへ向かうか?

リンク
宮崎正弘の国際ニュース・早読み
宮崎正弘のホームページ

<宮崎正弘のロングセラー>
『世界金融危機 彼らは「次」をどう読んでいるか?』 (双葉新書、840円)
『2012年、中国の真実』 (WAC BUNKO、930円)
『中国大暴走 高速鉄道に乗ってわかった衝撃の事実』 (文藝社、1365円)
『中国は日本人の財産を奪いつくす!』(徳間書店、1260円)
『自壊する中国』(文藝社文庫、672円)
『震災大不況で日本に何が起こるのか』(徳間書店、1260円)
『中東民主化ドミノは中国に飛び火する』(双葉社新書、880円)