アジアという定義はあまりにも壮大であり、その歴史は複雑を極める。西洋と東洋の文化交流で栄えた中央アジアはイスラムの歴史ともいえるだろう。私たちの先人はそうした中にも高い関心を抱き、宥和し、支えあい、時には戦争をしながら関わってきたのだ。アジアの中で存在感ある日本として、近隣諸国の影響を甘受するだけでなく、他国に対して影響を与えていくことも重要ではないか。

中国には56の民族があるといわれる。いくつかの民族はそれぞれに自治区があるが、中でも大きな領土を有するのがチベット、ウイグル(旧東トルキスタン)、南モンゴルの三地域だ。

チベットに関しては、宗派が違うとはいえ同じ仏教国であるため日本人には親近感を抱きやすいといえる。ダライ・ラマ法王という圧倒的なカリスマの存在も大きい。日中友好のシンボルとされてきた「パンダ」は中国四川省に生息する動物だが、そこは元来チベットであり中国になったのは戦後のことだ。最近ではその事実も広く知られるところとなった。中共からの弾圧に耐えかねた僧侶たちによる焼身自殺は世界から注目を集め、日本人にも高い関心を抱かせている。

その隣に位置する新疆ウイグル自治区(旧東トルキスタン)に関しては、イスラム国であるためか日本での関心は薄い。加えて、イスラム教徒による911アメリカ同時多発テロ以降、イスラム=テロリストという言葉が世界で独り歩きしはじめた。中共はそれを巧みに操り、ウイグル地方への弾圧を強化した。それに抵抗した市民がデモや暴動を起こせば「テロ」として大きく報道する。日本のメディアはそれを垂れ流すだけなので、多くの日本人は中共によるウイグル人への弾圧や虐殺の事実を知ることはなく、そのまま関心は薄れてしまうだけである。

日本人になじみの深いシルクロードや楼蘭遺跡などは中国ではなく、元来は東トルキスタンだ。住民が少ないとはいえその居住区で四十回以上もの核実験を行い、多くの人の命と自然を破壊し尽した。そのメガトン級の放射線量は広島長崎の数百倍であり、シルクロードは放射能に汚染され今なお放置されたままだ。その地を世界遺産に登録申請しているというが、これは世界に対する犯罪といえよう。

4月3日、都内で「アジアの自由と民主化のうねり ~日本は何をなすべきか~」と題したシンポジュムが開催された。
登壇者は、ロブサン・センゲ チベット亡命政府首相、ドルクン・エイサ 世界ウイグル会議事務総長、オルホノド・ダイチン モンゴル自由連盟党幹事長、など、中共からの弾圧が絶えない三民族のそれぞれの国外にある独立活動団体や亡命政府の要人たちである。

その場を取材したジャーナリストの有本香さんがウイグル人について書いたコラムを一部抜粋して転載する。

WEDGE Infinity
チャイナ・ウォッチャーの視点
2012年04月09日(Mon) 有本 香
から抜粋

ウイグル人は「テロリスト」なのか?

「チベット問題が、国際社会において大問題として認知されているのに比べて、われわれウイグル人の問題はほとんど知られていません」
-世界ウイグル会議(亡命ウイグル人組織、本部ミュンヘン)事務総長のドルクン・エイサ氏-

ウイグル情勢に今後大きな影響を与えるか、と思われる国際ニュースが昨日来、続けて伝わってきている。ひとつは、インドとパキスタンの歴史的和解のニュース、もうひとつはトルコのエルドアン首相の新疆ウイグル自治区訪問のニュースである。

ウイグル情勢を探る際には、ウイグル人と中国当局との関係を見るだけでは十分ではない。国境を接しているパキスタンや、ウイグル人と民族的に近い中央アジア、トルコといった国々との国際関係を注視する視点を忘れてはならないのである。

アメリカによる「対テロ戦争」のとばっちり受けるウイグル人

日本のメディアと日本人の多くが、ウイグル人の抗議行動を、短絡的に「テロ」という言葉と親和させてしまう現状は、2000年以降の国際情勢の動きと無縁ではない。9.11以降アメリカが強力に推し進めてきた、「テロとの戦い」という大キャンペーンの「とばっちり」をウイグル人が受けている、といっても過言ではないのだ。事実、アメリカ政府は、自国内に住む無実のウイグル人をあの悪名高きグアンタナモ米海軍基地のテロ容疑者収容所に送った経緯もある。

ホータン事件の衝撃 食い違う発表内容

中国メディアは、「襲撃犯らは、派出所にジハード(聖戦)の旗を立てた」として、あたかも「イスラム過激派によるテロ」であるかのようなイメージを被せようとした。ところが、在外ウイグル人らによると、グループが派出所の屋上に立てたのは、スカイブルーに三日月と星が描かれた「東トルキスタン国旗」であった、という。つまりこの一件は、「ウイグル人はけっして民族自決をあきらめない」という強い意思の表明だったというのだ。この件、遠く離れた北京の政府にも相当の衝撃を与えたであろうことは間違いない。

印パにミャンマー 変わる周辺

インド・パキスタンの和解。印パの和解が今後スムーズに進むか否かは不明だが、それでも、中国にとって長年の友であり、とくに近年、米国との関係悪化から軍事的つながりを強めてきたパキスタンが、共通の敵であったインドと関係修復を表明したことが面白いはずもない。

問われる日本の真価

国際情勢が目まぐるしく変化する中、つねに後手にまわっている感の強いわが国であるが、そんな日本で来月、在外ウイグル人の活動からが集結する。世界ウイグル会議の第5回大会を東京で開催されるのだ。中国はすでに、今般のチベット亡命政府の首相訪日の件と合わせて、強烈な不満を表明している。

中国との経済的な結びつきが強いことにかけては他国に引けを取らないわが国だが、果たして私たちは、その現状に引きずれられるだけでよいのか? 自由、人権、民主主義といった、全人類に共通して保障されるべき価値を重んじる国としての日本の真価が、今後試されることとなるのである。

ぜひ全文を チャイナ・ウォッチャーの視点 有本 香 2012年04月09日

 
リンク
世界ウイグル会議 – Wikipedia
RFUJ ラジオ フリー ウイグル ジャパン
 ( ドルクン・エイサ氏から日本の皆様へ 2011.03.30収録 )
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