鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第56号(3月18日) を転載

金正恩、オバマにパンチ!

北朝鮮が2月末の米朝合意を早くも覆した。合意から16日後、人工衛星を打ち上げると発表したのである。今までも人工衛星を打ち上げると言っては、長距離弾道ミサイル実験を繰り返してきた。米朝合意の長距離弾道ミサイル発射凍結には当然、人工衛星も含まれている。

テレビで、いつも北朝鮮寄りのコメントをすることで有名な大学教授が「今回は本当の人工衛星の可能性がある」などとコメントしていた。だがこれで安心するのは余程の軍事音痴だろう。
人工衛星と弾道ミサイルは基本的に同じ技術であり、弾道ミサイルの弾頭が地上に着弾せずに地球を一周すれば、人工衛星である。もし今回本当に弾頭が地球を一周すれば、米国首都ワシントンを直撃できる大陸間弾道弾の技術開発に成功したことになり、もちろん、それだけの長距離射程を持つのであれば、弾頭重量1tの核弾頭を日本に着弾させることも可能になる。
つまり人工衛星説では、この教授の意図とは裏腹に北朝鮮の脅威が一層強調されることにこそなれ北朝鮮を庇う事にはならないのである。

それにしても僅か16日で合意を覆したのはいかがな訳か?24万tの食糧支援を惜しげもなく不意にする真意は何なのか?

真相は不明だが、年末から年初にかけてイランから北朝鮮に数億ドルが送金されたとの情報がある。未確認なので公表には至ってはいないが、これが真実であるとすれば前後の辻褄は合う。
つまり年末、イランはEUから原油禁輸の制裁、イスラエルからの空爆の脅威に反発し、ホルムズ海峡封鎖を示唆した。戦争が近いと見たイランが北朝鮮との核兵器共同開発に資金を大量投入するのは自然な流れだろう。
北朝鮮にすればイランから潤沢な資金が得られた上は、米国のけちな食糧支援など一顧だにしない筈である。

これを戯画化すれば、スイスの高校中退の暴走族のあんちゃん、金正恩にイランのハメネイ爺さんが弔問にやってきて「これでハーレー・ダビッドソンでも買ったらいい。ところで亡くなった親父さんの金庫に拳銃が何十丁かある筈だが、十丁ばかり貸してくれないか」と一億円の札束を置いて行ったとさ。
そうとは知らずに警察署長のオバマ、やはり弔問に来て「親父も亡くなったんだし、坊やはしばらく暴走行為を控えたらいい」とビスケットを十箱ばかり差し出した。正恩、「馬鹿にするな」と怒鳴ってオバマの顔面にグーでパンチを食らわした、と言った所か。

もちろん日本としても笑ってはいられない。ミサイルの発射方向は尖閣諸島に近い。中国の将軍は、尖閣を中国の軍事演習区域に指定しようと最近発言したばかりだ。もし自衛隊のミサイル防衛部隊が尖閣付近に展開するとなれば、中国は黙ってはいまい。北朝鮮の狙いは、日本と中国を戦争させる事にあるかもしれない。
もし仮に北朝鮮の核ミサイルが尖閣諸島を直撃したら、どうなるだろう?オバマと胡錦涛と野田が茫然と立ち尽くす中、金正恩とハメネイがプーチンの手拍子でコサック踊りに興ずるさまが目に浮かぶではないか?戦後秩序、終焉の宴である。

日本政府はいまだに戦後秩序の平和の幻想から覚めていない様だ。ホルムズ海峡が封鎖されたら特措法で対処するなどと、相変わらず付け焼刃の調整で乗り切れると思っているらしい。チャンネル桜でその問題点を指摘した。参照されたい。

 
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軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。
<著作>
戦争の常識 (文春新書)
エシュロンと情報戦争 (文春新書)
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