田母神俊雄公式ブログ 2012-03-17 を転載

東日本大震災の復興は何故遅れたか

東日本大震災から一年が過ぎた。しかし被災地の復興はなかなか進まない。こんなときは政府や地方自治体が平時には持たない強い権限を持って各種作業を進める必要があるが、我が国には憲法などに緊急事態の規定がない。だから、平時の十分に時間的余裕があるときの法律が、一刻を争うような国家緊急事態においても適用され個人の権利の前に復興作業が立ち往生してしまうのである。

先日、松島地区を訪問する機会があった。瓦礫の山がまだ多くは手付かずのまま残り、津波で流された自家用車の山もあちこちに残っていた。案内してくれた人に聞いてみると自家用車を片付けるには所有者の承認を受けなければならないそうで、なかなか作業が進まないと言っていた。また、瓦礫の片付けも経費不足で入札不調に終わることも多く時間を要しているとのことであった。亡くなった方や行方不明者も多く、車の所有者の確認ができないことも多い。また、一般競争入札を行うには事業の公示などに多くの時間を必要とする。ならば法律を作り政府や地方自治体がどうせ使えなくなっている車の処分をしたり、話し合いで、いわゆる悪評高い官制談合などで、瓦礫などの撤去作業ができるようにすればよいと思う。平時には認められないことを緊急時には出来るようにしておかなければ緊急時に迅速に物事は進まない。結局それは、多くの国民を不幸にすることになる。

震災の復興が遅々として進まないもう一つの大きな原因は、政府が必要なカネを準備しないからである。震災が起きたときに政府は「各地方自治体ごとに速やかに元通り復旧せよ。それに必要な経費は政府が何とかする」とでも言えばよかった。政府には通貨発行権があるのだから、決心次第でいくらでも経費は出せるのだ。そうすれば今頃相当復旧は進んでいたのではないか。被災地の人たちは住宅や事務所を復旧するには、何千万ものカネを必要とするということで途方にくれてしまう。そこに政府はおもむろに復興構想会議を立ち上げ、3ヶ月もかけて復興構想をつくり、これにあう復興計画を各自治体が作れと言うものだから、多くの被災民は町がどのように復興されるのか出来上がりの形がわからないまま、またカネの手当てはどうしたらよいのか分からないまま、半年も1年も過ごさなければならない。

将来に希望が持てない人たちは、被災地を離れ新しい土地で新たな人生を始めることになる。被災地の人口はどんどん減少して、復興は次第に難しくなってしまうのである。被災者が町は元通りに復旧され、カネは払って貰えると分かれば安心できる。しかし政府がカネと権限を握って、政府の復興構想に合う事業にだけカネを出すとかいうものだから復興が遅延するのだ。各地方が必要だという経費を政府は準備してやればよい。一方政府にはカネがなくそんなにカネを出しては我が国の財政破綻が起きると心配する人があるかもしれないが、それについては全く心配がない。それは長くなるので別の機会に論じたいと思う。

更に復興に当たっての基本的考え方が間違っている。

航空自衛隊の作戦の一つに被害復旧というのがある。航空攻撃などで指揮所や滑走路やレーダー施設、弾薬庫などが被害を受けた場合、被害復旧を行うことになるが、これは応急復旧と本格復旧の2段階に分けられる。まず応急復旧により最小限必要な機能を確保しておいてから本格復旧を考えるのである。応急復旧の基本方針は速やかに元どおりに戻すということである。すぐに元通りにするということが分かるので、それぞれの部署が被害発生後、直ちに復旧に向けて動き出すことが出来る。ところが、どのように復旧するのかと、最初から本格復旧について考え始めると、復旧後の出来上がりの形について議論が別れ、それだけで1週間も2週間も時間がかかってしまう。作戦基地が使えないその間に次の敵襲を受ければ更に被害が拡大することになる。これを避けるために応急復旧が行われる。

このような見地で東日本大震災の復興を考えると、応急復旧とは被災者がそれぞれが住んでいた場所で何か仕事を得て生活が出来る状態を速やかに回復することではないかと思う。それをやらないでエコタウンだとかより安全な町だとか議論している間に、将来に不安を抱く人たちはどんどん町を離れ、人口が減れば減るほど町の復興は難しくなっていく。今回の震災に対し、政府は応急復旧をやらずに本格復旧ばかり考えていたのではないか。

政府は「被災者を3年間国家公務員として雇用します。国家公務員として自分の町の復興作業に当たって下さい」とでもいうことにしたらよかったのではないか。30万人の被災者がいたとしてこれを月給20万円で雇っても年間7200億円の予算ですむ。そうしておいて復興作業の過程で、あるいは復興作業をやりながらエコタウンとかより安全な町とか工夫すればよい。政府に応急復旧と本格復旧の認識があればここまで復興が遅れることはなかったと思う。もちろん政府が自らの失敗を隠すため、放射能の恐怖を煽りすぎたことも大きな原因であるが、決して放射能のせいばかりではない。東京電力に責任を転嫁してその責任を政府が追及しているのは全くおかしいと言わなければならない。

 
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著書
ほんとうは強い日本 (PHP新書)
日本はもっとほめられていい (廣済堂新書)
「村山談話」とは何か (角川oneテーマ21)