米国政府が絶えず経済界の要望に応え戦争に踏み切り、驚くべき繁栄を手にしてきた歴史を振り返ってもいる。
米中関係は今年に入って急速に悪化しており、もし世界不況が深刻化すれば、その対立は決定的なものとなる。米国には中国の経済問題と人権問題を一挙に解決するのは戦争しかないとの意見もある。過去の戦争を語る事は決して過去を語っているのではない。それは未来の戦争を語っているのである。

軍事ジャーナル【8月12日号】 を転載

誰が戦争を始めるか?

1941年12月の日米開戦の仕掛け人は時の米国大統領ローズベルトその人である。彼は石油の対日禁輸に同年8月に踏み切るが、その1週間前に演説で「石油の対日禁輸に踏み切れば戦争になる事」を明言している。つまり日本を戦争に追い込むために経済制裁を科したのだ。

問題は何故彼が戦争を欲したのか?これについて米国のVETARANS TODAYが面白い論考を掲載している。
http://www.veteranstoday.com/2011/06/26/was-world-war-ii-fought-to-make-the-world-safe-for-usury/

これによると1930年代後半、日本は巧みな金融政策ゆえに経済成長に成功するが、米国の連邦準備銀行は暴利を貪る悪徳銀行家に乗っ取られており最悪の金融政策の下で景気回復出来なかった。日独は低金利政策で成功しており、これを諸外国が真似て成功すれば米国の高金利政策の間違いは明らかになり、銀行家は暴利を貪れなくなる。そこで日本に経済制裁を科すべく政権を動かしたのであるという。

VETERANS TODAYは米国の復員軍人向けの雑誌であり、その影響力は大きい。米国の最強の官庁は国防総省だが最大の官庁は退役軍人の面倒を見る復員省である。退役軍人達はその地域で団結を維持しときには政治勢力を結集する。米国が財政赤字に喘ぎながら巨額の国防費をなかなか削減できないのも彼らの圧力が大きい。

最近国防費の大幅削減の方針が打ち出されたが、その実施は危ぶまれている。戦争の危機が高まれば、退役軍人達は当然国防費の増額を要求するに決まっている。

さてこの論考はあるコラムニストがある政治家の論文を引用・紹介する形で議論が展開されている。正確な歴史論文ではない。これを読む米国の読者はこの論考の背景にある種の政治的意図を感じている事だろう。

というのも米国ではしばしば歴史上の議論が現在の政策論争に直結している。歴史の先生がしばしば政権スタッフに登用される国なのである。(ニクソン政権時のキッシンジャー国務長官は19世紀の欧州外交史の研究家だった)

この論考は金融政策と戦争を論じており、明らかに現在の米国の国家戦略を意識している。1930年代後半の日本を現在の中国とダブらせるのは、我々日本人にとっては愉快な比喩ではないが米国人にとっては自然なことだろう。

中国の経済発展が米国の経済成長に寄与していないのはリーマンショック以降の米国の経済を見れば明らかで、人民元の切り上げ要求に一向応じようとしない非協力的な友人に対して米国のビジネスマン達はもはや敵意を隠さない。しかも中国はその成長の多くを国防費の増額につぎ込んでおり、いずれは来るであろう米軍との戦争に備えているのも明白である

米国は、中国が米海軍を破壊できる戦力を持つまで中国の経済発展を許すのは馬鹿げた政策だと気が付き始めている。この時期に現れたこの論考は、中国に対する経済制裁は戦争を引き起こすと警告しているようにも見える。しかし半面、米国政府が絶えず経済界の要望に応え戦争に踏み切り驚くべき繁栄を手にしてきた歴史を振り返ってもいる。

米中関係は今年に入って急速に悪化しており、もし世界不況が深刻化すれば、その対立は決定的なものとなる。米国には中国の経済問題と人権問題を一挙に解決するのは戦争しかないとの意見もある。過去の戦争を語る事は決して過去を語っているのではない。それは未来の戦争を語っているのである。

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