「水俣病」という言葉だけが独り歩きしている感があるが、その問題の本質、経緯、和解・解決への過程などはあまり知らされなくなっている。というか、長い年月を隔てながら関係者以外での関心が薄れている。風化させてはいけない。

現在、福島の原発事故の処理を巡って、「海上へ放射線を垂れ流した」といわれているが、この報道に触れるたびに新たな水俣病問題になりはしないか危惧するのである。

戦後復興のリーダー的存在であった企業「チッソ」が、水銀の垂れ流しで水俣湾を汚染しているという不名誉を知られたくなかった国と企業。そして、その事実が公表されれば湾内の漁業が壊滅状態になることを恐れた、地元住民による被害の隠ぺい。実態を知りながら、社会的混乱を避けるために官民一体となって情報隠ぺいしてきた結果、水銀汚染による公害問題は拡大された。無臭無味な水銀は静かに深く、症状のあいまいな水俣病は、親子何代にもわたり被害者の体に浸透した。

現在、東北地方の復興を大きく妨げているのは「風評被害」といわれ、政府対応が非難されている。55年前の日本はそれを恐れて実態を隠ぺいし、後に「ミナマタ」として公害病の恐ろしさを世界に知らしめることになった。それが大きな間違いであったと結論付けられた今、この風評被害による社会的視線を、情報隠ぺいへの監視機能とし、将来に傷を残さないことが重要だ。仮に、大量の放射線被害があったとして、社会が一時的に混乱したとしても、その解決に向けた研究努力がなされ、被害を最小限に止めることができるだろう。事実が隠ぺいされてはそれさえもできず、被害は拡大する。55年前の過ちを繰り返さぬよう、解決努力していくのが政府と東電に課せられた使命である。

水俣病患者3団体が、原因企業チッソと紛争終結協定を結んだという。終結したのは紛争であって、問題は多く歴史に残った。それを風化させることなく、子孫に負の遺産を残さぬよう、私たちは視線をそらしてはいけない。

くまにちコム 2011年04月26日を転載

水俣病被害者4団体、環境相に紛争終結を報告

水俣病特別措置法による未認定患者救済に応じた被害者3団体が26日、環境省を訪れ、松本龍環境相に原因企業チッソと紛争終結協定を結んだことを報告した。

3団体は水俣病出水の会(尾上利夫会長)、水俣病被害者芦北の会(村上喜治会長)、水俣病被害者獅子島の会(滝下秀喜会長)。

会見で、村上会長は「幅広い被害の救済を実現してもらい、国の対応は十分だった」と述べた。尾上会長も「民主党政権がスピード感を持って取り組んでくれたおかげ」と評価した。

一方、国とチッソ、熊本県に対する損害賠償請求訴訟で3月下旬に和解した水俣病不知火患者会も同日、大石利生会長らが上京し、松本環境相に訴訟終結を報告した。(渡辺哲也)