山本善心の週刊「木曜コラム」
日本を取り巻く国際情勢 第321号 2011年3月24日発行を転載
台湾の政治経済・現状分析
時局心話會 代表 山本善心
7月17日から開催される「日台アジア会議」の準備と打ち合わせのため、3月17日訪台した。翌日の18日午後3時には李登輝元総統のご自宅を訪問した。李閣下は90才とは思えないお元気なお姿とつやつやしたお肌、顔色の良さに筆者はほっとした気持ちと喜びがひとしおであった。
何といっても李閣下は日台関係の柱であり、両国にとってかけがえのない存在だ。もし、李氏の存在が抜きになれば、これまで、李氏時代に築かれた「親日親台」の砦が音を立てて崩れ落ちるとの恐怖もある。とはいうものの、李登輝政権誕生から21年、日台関係は不動の絆で結ばれ、台湾の民主社会はしっかり根付きつつあるようだ。
台湾全土を対象に行われた世論調査では、①最も好きな国は日本52%(米国8%、中国5%)、②最も信頼できる国は日本41%、③最も親しくすべき国は日本31%―となっている。
一方、日本人の対台湾人意識は、①台湾を身近に感じる―56%、②台湾を信頼できる―65%(交流協会2009年調べ)であった。
筆者は30年間、台湾の政治・経済の動向を観察してきたが、今後は、若い日台政治家と中小企業経営者らが活躍できる日台関係の交流・商談会に力を入れていきたい。今回の訪台で台湾の古い友人たちは、「日台アジア会議」の発足に協力を約束してくれたのは心強い。
中国を凌ぐ経済成長を続ける台湾
日本企業はこれまで台湾への親しみとは別に、台湾企業よりも中国の経済成長にばかり目を奪われてきた。その隙間を突いて台湾企業は、先進国並みの経済体制を整え、世界的企業が続々登場しつつある。
台湾一人当たりのGNPは中国の5倍以上、パソコンの生産台数は世界第3位、太陽電池は中国と並ぶ世界の二大生産拠点である。さらに発光ダイオード(LED)産業は世界シェアで日本に次ぐ第2位に躍進した。
日本人の中には台湾はかつて植民地であったとか、台湾の産業構造は日本の後追いだと軽視する見方もある。しかし、ほとんどの台湾企業は労働集約型から先進技術集約型に変身し、先進国並みの成長ぶりだ。既に半導体や液晶パネルでは、日本は台湾や韓国企業に主導権を奪われている。シャープや三洋など一部の日本企業は台湾資本と技術を含めた提携関係を模索し始めている。台湾企業家は「太陽電池とLEDは今後、半導体、液晶パネルに続く『一兆台湾ドル産業』になる」と熱っぽく語るのだった。
台湾企業のしたたかさを見習え
台湾全企業のうち中小企業は97%で約87万社もあり、人口の30人に1人が社長という勘定になる。台湾企業は中国に7万5千社も進出し、中国人の雇用は15百万人になる。台湾企業の中国進出は80%が成功しているといわれるが、わが国の対中進出による成功率は30%という統計表もある。日本企業は、対中進出で30%の確率を狙うより、利益を半分に落としても台湾企業との合弁、合作で対中進出を考えた方がよいとは中国で失敗した企業家の意見だ。
一方、中国ビジネスマンは、台湾企業家を「したたかな連中」と見ている。台湾企業家は中国経済人をはなから信用せずうまい話を持ちかけて手玉に取るのが上手い。しかし、日本企業は中国側のうまい話にコロリと騙される。中国企業家は「台湾企業とはやりにくいが、その分日本企業が穴埋めしてくれる」と言う。
台湾企業家らの意見としては、日本企業家はグローバルな会話ができる人が少なくできるとすれば、個人的な自慢話が多いので、親しくなれないとの声もあった。「日台アジア会議」では、成功確率80%以上を目標に密度の濃いビジネス環境を整えていきたい。日台間は「自由と民主主義、人権と法治」という同じ価値観を共有する仲間だ。わが中小企業が成長市場である東アジアにビジネス拠点を構築する足場として台湾は不可欠のパートナーだ。
中国元が降り注ぐ台湾
台湾経済が急成長した理由はいくつかあるが、最も大きな要因は1949年の分断後、これまでの香港経済に代わって初めて海運直航便と郵便の直接往来を解禁したことだ。中台間で通商、通航、通信(三通)が直接行われることで、大幅なコスト削減となり、これが景気回復、経済拡大の要因ともいえよう。しかし台湾が中国に工場進出するには50年以上の借地契約があり、途中撤退の場合は、残りの年数の地代をまとめて払わされるため、香港企業との合併でリスク軽減を図ってきた。
2009年7月、中国から台湾への投資が解禁された。当初100項目を開放し、その後豊富な「チャイナマネー」が台湾の不動産や株式、企業買収、買い付け等に投資されている。台湾企業家の友人は「いま台湾経済は空から中国元が降って来るようだ」と言う。台湾企業の好況には中国資本の存在感が増す一方であるが、台湾企業は技術流出を懸念し、知的財産権保護を求める意識が高い。
米国が鍵を握る「中台統一」の行方
中国は国内で「反国家分裂法」を勝手に制定し、台湾があたかも中国の領土であるかのように演出を試みて来た。いまでは中国人民の大勢が「一つの中国」論に洗脳され、台湾は中国のものと錯覚している。しかし、台湾人は “台湾は台湾人のもので中国が勝手に言っているだけ”と全く相手にしていない。台湾の世論調査では90%以上の人が現状維持を支持している。
中国の言う「一つの中国」は実現するのか否か。その鍵を握るのが米国の存在だ。米国の歴代大統領は口先では「一つの中国を支持する」と繰り返し発言しているが、それは外交的発言であって、実際には別の意味がある。米中台の三国の思惑を踏まえたうえで様々な見解を分析してみたい。
- 台湾初の総統直接選挙が行われた1996年、中国は周辺海域に弾道ミサイルを撃ち込んだ。米軍は直ちに空母2隻を派遣し、中国を牽制した。
- 朝鮮戦争の際、米中対立が台湾海峡に影響なきよう第七艦隊を台湾周辺海域に出動している。
- 米国は台湾に兵器を供与。日米台軍事責任者は対中戦争に備えた秘密会議を定期的に行っている。米国は今だに総統選か重要な選挙には台湾海峡に大型艦船を派遣している。
- 米国は台湾問題を人権問題と捉えている。中国が台湾を武力侵攻すれば、「台湾をチベットの二の舞にするな」と、世界は対中制裁で一つにまとまろう。
- 台湾は完全な民主化に成功し、20年余り、事実上独立国家として存在している。人口約2400万人の台湾が自決権を行使できなくなれば人権侵害となり、人権を理念とする米国は中国の行動を看過できない。
- 米国の空母、第七艦隊を脅かす中国の潜水艦増強はこれまでの米国の優位を揺るがすことになる。しかし、それ以上に米軍の近代化と兵器の技術進歩はムダなく効率化され、年々向上している。
- 中国の武力侵攻が起これば外資が引き揚げ、中国市場から外国企業が撤退する。米中は経済関係が断絶され、中国経済は崩壊する。
- 胡錦濤主席は江沢民前主席と異なり「武力行使も辞さない」との発言はこれまでなかった。人民解放軍の独走が危ぶまれるが、これは中国特有の空威張りパフォーマンスに他ならない。
- 中国現政権が崩壊前に矛先を台湾に向けるとの意見もあるが、これは現政権の決定的な自殺行為でしかない。
「一つの中国」は幻想だ
以上を考えても、中台統一とは非現実的で「一つの中国」論は中国側の政治ショーとの見方が明らかになりつつある。中国が「一つの中国」を強引に行えば、政治的、経済的、軍事的な面からみても中国の利益にはならない。台湾はすでに主権独立国家として、世界各国と経済、政治との密接な関係が築かれている。世界は台湾の存在が事実上独立した国家であることを認めているが、台湾国民も台湾が独立国家であることを前提として「現状維持」を主張している。
李登輝元総統は12年間の在任中に、台湾の民主化を構築した「台湾建国の父」である。李氏は「台湾はすでに独立している」と言い、中台関係を「国と国の関係」と宣言した。台湾は日本の植民地時代から解放され、中国国民党政権の弾圧から耐え忍び、自由民主主義国家として民主的な選挙が行われている。
李氏は、わが国と台湾が「運命共同体」と言うが、その根源は中国暴走の抑止力にあると解釈する。台湾国民の大勢は非民主的な「中台統一」を望んでいない。李氏は次世代の若い人たちに進路を誤らないよう真実を伝えていきたいと考えている。筆者は「日台アジア会議」を通じてそうした李氏の熱い思いに応え、日台関係を始め東アジアの「平和と繁栄」の一助になりたいとの強い思いが、燃えて止まらない昨今である。
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