中国のメルトダウン
元外交官で外交評論家の岡崎久彦氏が産経新聞6月1日に「中国はもう反日デモはできない」という論説を掲載した。
7月28日に中国の南通で日系企業に対する抗議デモが起きた。字面だけ見ると岡崎氏の予想が外れたかに見えるが、実はさにあらず。
岡崎氏はその論説で「私の判断では、今回の薄煕来事件以後、もう当局は反日デモは許さないと思う。反日といっても、それが何時、反政府デモに変貌するか分からないからである。それが数万人規模に膨れ上がった後では取り締まりも困難になる。」と指摘していた。
28日のデモはまさに瞬く間に反政府デモに転化し共産党庁舎に群衆が乱入し、武装警察が鎮圧する騒動となった。岡崎氏が指摘した通りの展開となったのである。問題は「中国は事前に予想できたのにも拘わらず、何故こうした愚挙に敢えて出たのか?」である。
このデモを取材していた朝日新聞の記者が中国の武装警察に取り囲まれ暴行を受けた挙句、カメラと記者証を没収された。朝日新聞社は中国に抗議したそうである。朝日はごく最近まで「中国を刺激するな」という立場に立っていた。
「中国を刺激するな」という所論はしばしばお目に掛るが、要約すれば「日中間にもめ事が生ずるのは、日本が中国を刺激するからである。日本が中国を刺激するような行動を取らなければ日中関係は平穏になる筈だ」との認識に基づく。
この認識に基づくなら、朝日の記者は中国を刺激するような行動を取ったからこそ暴行を受けた事になる。だとしたら朝日が中国に抗議するのは、おかしいだろう。「悪いのは中国を刺激した朝日の記者であり、中国の反発は当然だ」という結論にならざるを得ないからである。
つまり朝日が中国に抗議したことは、朝日が「中国を刺激するな」論を放棄したことを意味する。日本が中国を刺激するから揉め事が生ずるのではない。中国が勝手に揉め事を引き起こしているのであり、朝日が中国に抗議したように日本も中国の暴挙に対応しなければならない。「中国を刺激するな」論はもはや成り立たないことが証明されたのである。
「中国海軍は今、南シナ海問題で手一杯だから東シナ海で軍事行動に出ない筈だ」という意見がある。これは中国が合理的判断をして行動する筈だとの認識に基づいている。だが今、米国政府を驚かせているのは中国海軍の南シナ海における行動が合理的判断を逸脱している点だ。
昨年米国は南シナ海を守る決意を表明し、東南アジア諸国との軍事連携を強化した。中国に合理的な判断があるなら、南シナ海においてもはや中国に勝ち目がない事は分かる筈だ。ところが今年に入っても中国は南シナ海における挑発行動をやめようとしない。それどころかエスカレートさせている。
南通におけるデモにしても合理的な理由は何一つ見出せない。中国の国家中枢がメルトダウンして合理的な判断能力を喪失しているとしか考えられない。もしそうなら東シナ海で暴挙に出る可能性はある。
最近、毎週のように原発反対デモが総理官邸を取り囲んでいる。原発のメルトダウンを恐れてのことだろうが、原発と核兵器を山のように持っている中国の中枢部がメルトダウンしている事実の方がはるかに恐ろしい。取り囲むべきは総理官邸ではなくて中国大使館ではあるまいか。
軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。
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