時局心話會 木曜コラム  日本を取り巻く国際情勢 第388号 を転載

尖閣が危ない!
~元中国紅衛兵・鳴霞氏に聞く

時局心話會 代表 山本 善心

いまや米国に次ぐ世界第2位の軍事大国となった中国。2012年の国防予算は前年比二桁増の8兆7千億円となり、600隻の艦船を保有するまでになっている。南シナ海で膨張を続ける人民解放軍の存在はアジア諸国にとって深刻な問題だ。こうした中国の膨張主義に対し、パネット国防長官は「同盟国が中国の覇権主義の危機に直面している」として米国の300隻ある艦船のうち200隻を南シナ海・アジアに配置する」と明言したのである。

これまでわが国は米国の第七艦隊が守ってくれるという米国頼りが日米の安全保障関係であった。しかしながら日本が領土を守る姿勢がなければ米国が日本を守ることはない。わが国は、自衛隊が頑として自国を守る決意を示すことが尖閣の命運を決することになろう。

今回は「月刊中国」主幹の鳴霞(めいか)氏に尖閣諸島を巡る人民解放軍の進攻作戦について聞いた。鳴霞氏は中国遼寧省藩陽市(旧奉天市)に生まれ、中学校で中国青年団のリーダーになる。高卒後、戦闘機、ミサイル製造工場に勤務するなど中国共産党のエリートであった。現在「月刊中国」の主幹として中国の内部情報を発信するなど注目の人だ。

台湾統一は時間の問題

山本)
胡錦濤主席ら党中央は2012年に中国は台湾を統一すると発表したが、結局台湾統一はできなかった。中国の政策は思いつきが多いのではないですか。

鳴霞)
もし台湾を武力で統一したら世界の中国へのイメージは悪くなるでしょう。ですから武力ではなく、経済によって台湾を統一したいとの方針に変更しました。いま、台湾社会に中国警察大学、貿易部、マスコミなどのエリートはもとより、タクシー運転手に至るまで多くの中国人スパイが入り込んでいます。また、台湾の有名企業の社長の子息を中国人と結婚させることも積極的に行われています。その結果台湾内部はじわじわと中国化が進んでいるんですよ。

山本)
ある台湾の大手携帯電話メーカーが中国に進出したことで100万人の雇用が生まれましたが、この会社が倒産すると100万人の中国人が失業し社会的にも大問題になります。中台はすでに運命共同体になっていますが、台湾と中国が一つになることとは別の問題です。

鳴)
いまの馬政権の国民党は、大中華主義を掲げています。習近平の時代になれば台湾ともっと手を結んで「中華民族」を掲げていくと思います。中国側から見れば「中台統一」は時間の問題と考えています。

山本)
と言われますが、経済と政治の問題は全く別問題なので、「中台統一」は、現実的には難しいと思います。最近、中台のトップクラスが海南島や台北で経済問題を協議していますがなかなか上手くいかないようですね。ましてや台湾人に「中台統一」の意識は全くありません。どうして「統一」できるんですか。

鳴)
中台統一は何十年もかけて計画されてきました。台湾が中国を頼りにせざるを得ないような、中台共同ビジネスを作り中国大陸が優位に立てば別ですが、大陸は国内経済の悪化で台湾どころではないんです。中台経済関係で台湾企業が大陸頼りのところもありますが、これからが問題ですね。

山本)
中国経済が悪くなれば、台湾企業にとって中国のメリットがなくなります。そうなれば馬政権の対中政策は失敗だったと言うことになるんです。今後、馬政権に対する批判がさらに厳しくなるでしょう。
さて、尖閣の問題はどうなりますか。

鳴)
中国保釣協会は「台湾を巻き込んで尖閣諸島を獲らなければいけない」と、中国全土に向けて宣伝しています。7月4日、中国解放軍の羅援少将は、香港のテレビ局で尖閣諸島に対する六つの戦略を発表しました。
 一)魚釣島(尖閣諸島の中国名)に中国の行政府をつくる。
 二)領域基線を制定して法律をつくる。
 三)軍事演習区をつくり、尖閣諸島の内部に軍隊を派遣する。
 四)海岸周辺に警備隊を設立する。
 五)石油開発、旅行、漁業などのビジネス地域をつくる。
 六)世界のメディアに魚釣島が中国の領土であることを宣伝する。
これは10日付の「夕刊フジ」に掲載されていましたよ。

山本)
日本でも、最近は方針が変わり、保安艇をつくって中国からの漁船を追い返す、自衛隊も、島の海域を守るため潜水艦、戦闘機を出動して、抑止できるように自衛権行使を策定する法案改正の準備を始めました。野田首相は対中有事に備えて自衛隊が出動可能な法律改正に意欲を示しています。すでに自民党がそうした法律を提出しているので、公明党も加わって増税法案と併せて集団的自衛権行使=戦争も辞さないという方向に進んでいるんでしょう。

鳴)
そうなれば日中間での戦争になる可能性があります。昨年の9月には解放軍のスポークスマンが日中領土紛争の解決策として、尖閣諸島周辺に軍艦を派遣すると発表しました。それに対して日本政府は抗議だけなので、中国解放軍はすっかり安心して軍艦や調査船を尖閣近海に出動しましたね。解放軍の狙いは尖閣に危機感を作り出して「反日」世論を作り出す一方、軍事費アップの要求が狙いとの見方もありますよ。

自衛隊VS人民解放軍

山本)
中国の人民解放軍は日本の自衛隊の力をどの程度評価していますか。日本の報道では中国の軍拡ばかりが誇大に宣伝されていますが、中国の軍艦が出動すれば日本の自衛隊も出動した場合どうなるかシュミレーションが必要です。

鳴)
戦闘機の数は中国が日本を上回っていますが、海軍に関しては総合的に10年遅れていますよ。中国空軍の兵員は2011年40万人、33個師団、航空機は3600機あり、そのうち1000機以上は無人戦闘機として改造されています。

海軍は北海艦隊、東海、南海の三大艦隊で兵員は25万人、さらに48隻の護衛艦艇、28隻の駆逐艦、70隻の潜水艦、55隻の艦艇を含めて、600隻を超えています。これは米軍の倍に相当する保有規模になりますよ。

尖閣は世界の世論が騒ぐ前に一気に奪取か

山本)
でも専門筋によると、中国製兵器は旧式が多く、兵員の訓練も不十分で一戦交えれば自衛隊の比ではないという声もあります。

鳴)
性能や能力で劣っても10数万人の民兵がいるから、解放軍は尖閣を3時間以内に奪取できると豪語していますよ。

山本)
そうなることを想定して海・空の防衛シミュレーションを作り、本気で尖閣を守る防衛態勢を日米共同で構築しています。自衛隊が動けば米国が動き中国は解放軍を出動できないでしょう。

鳴)
だから、世界が報道しないうちに一気に奪還するんです。8月の初めには香港の保釣協会が尖閣上陸を計画しています。漁民を装った民兵には自衛隊も手出しできない。卑怯な手ではありますがね(笑)。

山本)
そううまくいくんでしょうか。そうなれば中国も世界から反感を買って政治も経済も世界から「中国包囲網」が形成されるでしょう。しかも、自衛隊と米軍は民兵や解放軍が奇襲で上陸したとしても、奪還作戦を日米共同で訓練までしています。ここまでくれば、世界的な大戦争に発展するので、中国は結局何もできないんじゃありませんか。

鳴)
中国国内では7月21日中国江蘇省の南通市で環境汚染や健康被害の懸念があると地元住民5千人以上の抗議デモがありました。しかし、これは数日間日中のマス・メディアで報じられていません。ここにきて、王子製紙のたれ流し汚水が原因のように報道されていますが、当局が反日デモにならないよう抑制していますよ。

山本)
中国政府は反日デモに神経を使うのは党中央の批判にいつ変わるかの恐怖があるからでしょう。さて、日本人は、いったん右となれば右、左といえば一斉に左を向いてしまう極端な国民性があります。尖閣の次は沖縄が危ない。中国が日本の領土に手を出すことになれば、日本の世論が一変し、政府や自衛隊はかつての戦争時代に戻らざるを得ないでしょう。その意味では石原発言は日本国民に火を付けたんですよ。

鳴)
中国のタカ派は石油資源がほしいので戦争したくて仕方がない。習近平時代になればもっとインフレになり、物価は上がり、失業者も増える。そうなれば国民の不満は高まる。それでなくても現在胡錦涛政権は政治的な苦境に立たされていますから、国内の大改革をやらざるを得ないんです。しかし、胡政権時代は改革ができなかったんです。

山本)
今後は解放軍が共産党を支配するとの見方もあります。軍が力を持てば、経済不況でも軍備増強される可能性があります。とはいえ中国経済が破綻すれば軍備増強は減速する可能性もありますね。かつてソ連はいまの中国以上に軍事大国でしたが、アメリカとの軍拡競争に負けて、いまや旧ソ連邦は分裂しています。引き金は経済の破綻にあります。

鳴)
中国経済の破綻は目前にあると人民は不安を持っていますよ。しかしその前に1990年代生まれの若者は反共産党が多いですし、共産党内部も崩れつつあります。けれどもデモなど小さな暴動程度では世界に中国の歪んだ構造をアピールするには不十分で、天安門事件くらいの規模の大きな暴動が起きないと世界は注目しません。中国は国内の暴動という問題を抱えながら、海外には資源獲得のために軍事力を拡大しているのです。独裁国ですからなんでもやりますよ。その効果的な目標は台湾と沖縄なんです。その前に尖閣をゆさぶることが前哨戦になりますね。

本日は「尖閣が危ない」ということで、中国側の立場から忌憚のないお話をざっくばらんにお話下さいました。お互いに日中両国民が平和と安全、繁栄をもたらすよう、あらゆる真実の情報を提供し合っていきましょう。
ありがとうございました。

 
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