表面化されたニュースの陰には熾烈な権力闘争が隠れている模様。受信した情報をいかに解析するか、それがニュースの読み方だとつくづく教えてくれる。
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成23年(2011)7月29日通巻第3380号 を転載
中国権力闘争に三つの波瀾万丈要因
胡錦涛ら「共青団」にとって千載一遇のチャンスが来たが。。。
高速鉄道事故とアモイ事件主役の帰国は上海派を追い落とせる絶妙のタイミング
胡錦涛は暗闘の修羅場をくぐり抜けることが出来るか。彼には江沢民における曽慶紅のような軍師が不在なのか?
18大会(2012年秋、共産党第十八回大会)で習近平の総書記就任は確実視されてきた。革命元勲の息子でもあり、上海派に近く、軍のウケも良い。
習は「太子党」を束ねて、次の執権党を導くことはまず間違いないと言われた。太子党で反旗を翻して暴れたのは、重慶書記の薄き来くらいだ。
政治の世界は一寸先が闇、ここへきて三つの「大事件」が重なった。
第一は江沢民前主席の死亡観測。江沢民は脳死状態と言われ、上海派にとっては延命を望む。とすれば最長でも来年秋の党大会まで生命維持装置は外されないとする観測があがっている。
いま江沢民という後ろ盾を失うと習近平の保護者層が希釈となり、共青団の反撃が予測される。
極端に言えば李克強が再浮上し、総書記ポストをもぎ取る逆転劇も可能な状況を作り出せるのだが。。。問題はかれらに、そのような戦闘力があるか、どうか。
第二は予測された高速鉄道事故だった。
愛人十八人、汚職の象徴として更迭された前鉄道部長の劉志軍は江沢民派だった。
航空、高速道路、船を管理する中国交通運輸部は、鉄道に手が出せない。鉄道は孫文いらい指導層の鉄道好きが高じて「鉄道部」は独立王国だった。
ファミリー企業が跋扈し、腐敗の温床となった。
鉄道の利権は上海派に繋がり、腐敗と士気喪失が事故を間接的に生んだ。現場に飛ばされた副首相の張徳江も、上海派である。
責任追及の手をゆるめないと胡錦涛・温家宝がいうたびに世論の支持がある。
しかしここでも問題は胡錦涛一派の政略不在である。温家宝は事故から六日目に現場へ飛んで「責任追及」を訴え「生命と安全」を尊重すると記者会見したが、病み上がりの弱々しさが目立った。
第三はカナダから頼昌星の強制送還である。
彼が主犯とされる「アモイ密輸事件は」総額500億人民元の脱税、福建省の当時のトップから軍、警察、税関関係者を買収した。
そのために美女を集めた「紅楼」で盛んに「接待」が行われ、あまりの腐敗に立腹した朱容基首相の陣頭指揮で多くが拘束されたが、主犯の頼だけは、さっとカナダへ亡命していた。
▲またも中国権力闘争に波瀾万丈要因が加わる
密輸脱税事件の黒幕は賈慶林(政治局常務委員、政商協商会議主席、序列四位)とされ、頼が今後、裁判で真相をかたり始めると、上海派は完全にコーナーに追い詰められる。
在米華字紙などは、しかしながら、すでに頼は精神異常をきたしており、裁判での真相追求は期待できないとしているが。
またアモイ事件に習近平の関与が密かに噂されるのは、習は福建省でアモイ副市長、福州市党委員会書記から、福建省省長を歴任した履歴があるからだ。
ただし「アモイ事件」は1996-98ごろがピークで、むしろ習近平は当時、福建省のテレビ台本作家の美女との艶聞が流れたほど「ほかのこと」に多忙だった。福建省長の就任は事件以後である。
軍のなかに動きがある。
次期副主任あるいは国防大臣の椅子を狙い始めた太子党の軍人は劉源だ。劉は劉少奇の息子、かれは習近平の遊び友達、太子党人脈である。この劉源の登場は、今後の中国政局の攪乱要因で、つぎの権力闘争の展開予測を複雑にしている。