「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成23年(2011)4月16日(土曜日)通巻第3304号 を転載

為替相場固定制度を復活せよ(その2)

為替固定相場制度復活論連載の完結編です。宮崎正弘

▼木内経済学は日本重視、伝統第一の保守のテキスト

ここまでの論では、とくに(三)の!)が重要である。ドル・レートに振り回されない「独自で適切な」金利水準を持たない限り日本経済はますます歪むから、そのためにも固定性にメリットがあるとし、また近年の物価変動も、為替レートで左右されなくなるだろうとする。そしてもっとも肝心なことは、それによって得られる!)の「当来の世界経済秩序」というポイントである。

この一点に、実は日本の伝統を尊重する木内経済学の真骨頂がある。しかし戦後エコノミストの大半は木内理論を敬遠し、アメリカ式新理論の流行に乗り遅れまいとした。それはこの「本来の金利水準」「当来の秩序」といった考え方が了解できなかったからだ。
この発想を理解するために、次に掲げる補足「道理に適った対米態度を」の箇所を、もう少し読んでいただくことにしよう。

(木内論文の要諦)
「道理に叶った対米態度」に逐次移行する」

(一)いまの日本の対米態度は、いままで日本がおかれてきた境遇上無理からぬことではあるが、「道理に叶ってはいない。それを、至急に、また一度とはいわない、逐次で結構だが、道理に叶ったものに変えていくべきである。

いまの日本の対米態度は「追随的」だ。強く押されれば引っ込むという態度だ。敗戦直後は占領行政、そのあとは自発的に「米国一辺倒」でやってきた。
もちろん、いろいろお世話にもなった。だからいまの態度で日本があることに無理はないのだが、もうこれではいけない。なぜなら、いまの米国は、世界のリーダーとしての資格を喪失してしまったからだ。

▼日本は日本らしい経済政策を!

(二)それはまたなぜか。いまの米国は「経済的帝国主義の国」と評すべき国だが、総じて「帝国主義」の時代はもう去ったので、これから、世界の国々は、大庄強弱に関わらず、それぞれの「個性」を生かすことが許されるようでなければならない。

共産主義のソ連が世界共産化の夢を持っていた間は、経済的帝国主義の米国は尊い存在であったが、いまソ連が、いよいよ近くその共産主義を放棄するであろうと思われるに至っては、米国的帝国主義は止めにしてもらわねばならない。だから日本は、その「米国追随の態度」を離れて、“ 日本らしく生きる ”ということにならねばならない。それが「道理に叶った日本の生き方」というものなのだ。それならば日本は、いま即時に”態度を変えよう“という「決心」をすべきである。

一方、日本自体はどうか。いままでは、輸出競争その他でも、ひとに勝たなければ生きていけないと考えていた日本だった。そしてその考え方は、過去においては正しかった。ところがいまは違う。勤勉であるとか社員は全員が会社本位にものを考えるとかいう「日本的性質」に加えて日本は「ハイテク世界一」の国になったのだから輸出競争に勝とうと考える代わりに、どうやって「出超」を少量に止めるかということを考えるべき国となったのである。

いきなり米国に右の話をしたら、もちろん怒るだろう。そして、いよいよ理性を失った行動に出るだろう。だから、いきなり米国に話をぶつけてはならないので、目の詰んだタクティックが必要である。ただし「道理に叶う日米関係の在り方」とはこのようなものであるから、なるべく早く米国を分らせてそこへ持っていこうとする「決心」は、いますぐつけるべきだと考える。
そしてそのタクティックは、次に述べるようであればいいと思う。

▼米国をいたずらに怒らせてはいけない

二つのこと。
「為替相場の固定化」と「道理に叶った対米態度に移行すること」を提案したが、結びとして「前者が先決条件」だということである。

なぜならいくら前記のような柔らかいやり方でやるといっても、米国の具体的な要求にどこまでも従うことはできない以上、日米関係は険悪化するかもしれない。
もしもそれが酷ければ円は暴落、株も暴落となって日本はどうなるか分らない。
だから日本人は米国に対してどうしても卑屈になるのだが、それを未然に防ぐのが「為替相場の固定化」なので、これはいまから用意して、いつでもやれるようにしておかなければならない」(以上で引用止め)。

以上が木内提言のエッセンスである。
右の提言の随所に流れている思想を確認しておこう。愚かにもドル・レートに振り回されて日本経済を台無しにしてきた。対米一辺倒の結果であり、道理に叶っていない。

対ドル・レートを日本から一方的に固定し、独自の金利と物価体系を作り出していくのが、今後「日本らしく」生きていく方途だとするナショナリズムの脈打つ確かな主張だということである。

かくて大震災を奇貨として日本が復興の道を歩むには、従来の発想のパラダイムから大きく飛躍するべきなのである。

 
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