ソ連の崩壊を研究すれば、支那の将来予想ができる。レーガンと安倍晋三の類似を指摘した、とても分かりやすい解説です。
レーガノミックスとアベノミックス
レーガノミックスとは1980年代の米国のレーガン政権の経済政策を指す。私は安倍政権成立直前からアベノミックスとレーガノミックスの類似を指摘してきたが、昨今いよいよその観を強くしている。
最近、保守派の一部からアベノミックスへの批判がなされるようになったが、その内容は「アベノミックスが当初期待していたほどケインズ的ではなく、むしろ新自由主義的である」という失望である。しかし、これはレーガノミックスとの類似から考えれば当然のことで、レーガン政権が当時ミルトン・フリードマンら新自由主義経済学者達の強い影響下に成立したのは周知の事実だった。
レーガノミックスは結局リーマンショックをもたらしたということで、現在の米国では著しく不評だが、1990年代においてはサッチャリズムと並んで自由主義経済の成功の代表例として称賛の的であった。実はこれら新自由主義政策は1980年代においては米英に経済的繁栄をもたらしてはいない。1987年、ニューヨーク証券市場における大暴落はブラックマンデーと呼ばれその後2年間景気は回復しなかった。
それが90年代に入って経済的繁栄に大化けしたのは1991年、ソ連が崩壊し東欧が市場開放されたために他ならない。では何故ソ連が崩壊したかと言えば、軍事費の増額に耐えられなくなったためであろう。
新自由主義のスローガンは「小さな政府」だが、レーガン政権は実のところ政府予算を縮小させていたわけではない。社会福祉は切り捨てたが国防予算は急増させた。1970年代、米軍はベトナムから撤退し、軍縮態勢に入っていたから軍縮から軍拡に転換したわけだ。
米国の軍縮を攻めの好機と捉えたソ連は軍拡を推進しアフリカ、中央アジア、日本海に勢力を拡大したのだが、米国の軍拡への転換に対抗上さらなる軍拡が必要となり財政が破綻したのである。
このように見てくるとレーガノミックスが一見、経済政策のように見えながら、その本質において国防政策であったことが理解されよう。経済的繁栄は経済法則よりもむしろ地政学的要因による場合があるのだ。
さて、かつての米ソの状況が今日の日中の状況に酷似していることは明らかであろう。日本が軍縮期に入ったのを攻めの好機と捉え、中国が異常な軍拡に乗り出したのは70年代のソ連と同様だ。そして中国の軍拡を脅威と認識し、日本を軍拡に転換させた安倍政権は80年代のレーガン政権に酷似している。しからば中国が対抗上さらなる軍拡を目指さなければならず、しかし財政はもはやこれ以上の軍拡に耐えられそうにないのも崩壊前のソ連と同様だ。
もとよりソ連も財政破綻の危機を認識しなかった訳ではない。80年代半ばゴルバチョフ書記長が経済改革(ペレストロイカ)に乗り出したのをご記憶の方もあろう。しかし共産党一党独裁体制の中で改革は進まず、結局ソ連は自壊するに至る。
その意味で、対日強硬派で知られる中国人民解放軍の将軍、劉亜州が中国に複数政党制の導入を提唱したとの報道は興味深い。中国がソ連同様に崩壊するかどうかは、中国自身が決めることだ。もし崩壊を避けたければ軍拡をやめるしかなく、そのためには民主化が急務である。
歴史認識問題が内外で声高に語られている。だが歴史とは行き詰った独裁体制の延命よりも新たな未来の創造のために知恵を提供すべきであろう。
軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。
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