鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第109号

米中の決裂

今日、中国の公船が尖閣付近で領海侵入した。先週金曜日にも侵入した。前号で「米中がどんな合意に至ったかは、今後数週間の東シナ海や南シナ海での動きで分かる。もし中国が挑発行為をやめれば、米国は対中経済支援に動くだろう」と言う趣旨で書いたが、中国は相変わらず挑発を繰り返している。
つまり米中首脳会談は何らの成果ももたらさなかった。米中は決裂したのである。

オバマの外交下手は非難されるべきだが、それ以上に驚くべきは習近平の無能ぶりである。彼は軍を統括する立場にありながら、中国海軍の暴走を止める事が出来ない。尖閣に侵入している中国公船は表面上は海軍とは別組織だが、その実密接に連動しており海軍の別働隊と見ていい。
中国が挑発をやめない以上、米空母を中近東に移動させられない。オバマはシリアの反政府勢力への支援は表明したものの、米軍の本格的介入は見送らざるを得なかった。米軍の本格介入がないとなれば今後、中近東はますます不安定化することは目に見えており、ロシアは増派の意向を示し欧米と対立した。

G8首脳会談で安倍総理だけが目立ったのは、安倍総理以外どの首脳も将来の方向を示せなかったからで、これを一言で批評するなら、習近平の無能ぶりが安倍総理を世界のリーダーに引き上げた、ということになろう。
当然、中国は経済支援を得られず今後、欧米日の対中投資は減る事はあっても増える事はない。密かに囁かれていた7月中国バブル崩壊説は現実のものとなりそうである。

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

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