安倍政権による中国包囲網は、ことのほか大きな効果を得たことがうかがえる。それは支那のみならず、アメリカにも影響している。外交と国防をアメリカに丸投げしてきた日本が、独自の外交を展開し大きな反響を得ていることが、アメリカには不愉快なのだろう。加えて国防に軸足を置いている安倍総理に対する風当たりは、第一次安倍政権のときから変わらない。「日本は現金をたくさん持っているが自分を守る力がないから、文句を言えばいくらでも要求を呑むヤツで、都合がいい」というのが米中の共通認識だ。
引き続き安倍政権を支援したい。

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成25(2013)年6月10日 通巻第3958号 を転載

パームスプリングの米中首脳会談は成果があったか?
随行団は、こちこちの反日家ばかりだ

2013年6月7日、8日の二日間にわたってカリフォルニア州パームスプリングのサニーランド別荘で、米中首脳会談が開催され、世界のマスコミが注視した。とりわけ日本のマスコミは大布陣、あたかも日米首脳会談を報道するかのように、多くの記者団が取材に赴いたのである。

会場の周辺は習近平を批判する自由民権派、中国民主活動家、チベット独立運動、ウィグル独立運動団体などが埋め尽くし、習訪米に示威行動を展開した。「米国は騙されるな」「独裁制度が終わらない限り、中国に夢はない」などと大きなプラカードが並んでいた。

米中首脳会談の「成果」を見ると中国は図々しく物言い、むしろオバマ大統領の譲歩が目立ち、中国軍部の巧妙なハッカー攻撃を受けても、サイバー戦争への非難は微温的であり、尖閣への直接的言及はなく、あまつさえ習近平は「太平洋に中国と米国を受け入れる空間がある」とまで豪語されても、黙っているだけだったのだ。

両首脳は北朝鮮情勢で意見の一致をみた、などと報道されているが、「太平洋における(軍事行動の)自制が必要」と述べただけで、反対に中国は(尖閣諸島問題で)「米国の中立」を求めた。オバマは「米中が協力すれば、両国民の安全と繁栄が達成しやすくなる」と抽象的表現に終始した。事実上、なんの成果も上がらない首脳会談だが、米国は習近平に合計六時間を割いて厚遇した。安部訪米時の日米首脳会談はランチ省略、45分という短さだった。

このように「米中首脳会談は、『新たな協力関係』の演出とは裏腹に、オバマ大統領が中国によるサイバー攻撃や人権抑圧を取り上げて改善を迫るなど、価値観が異なる両国の隔たりを改めて浮き彫りにした。『米中間には緊張を避けられない分野もある』(と)オバマ大統領が7日の共同会見で語ったように、習近平国家主席の就任後間もない時期に設定された今回の会談は、こうした分野でしっかり中国側にくぎを刺しておきたいとする米側の意図は不発に終わった」(産経新聞、6月9日)

▼原型をつくったのは親中ロビィの代表キッシンジャーだ

米中関係の立役者は基本的にはニクソン、そして補佐役がヘンリー・キッシンジャー(元米国国務長官)である。
しかし巷間では、決定したニクソン大統領をさておいて、当時大統領補佐官でしかなかったキッシンジャーが米中関係の良好な関係を築きあげた功労者という位置づけになっており、世界的にも高名で、その実、かれが米国の中国ロビィの第一人者であるという実質は軽視されている。

キッシンジャーは基本的にバランスオブパワーの信奉者であり、その著作は均衡保持のためには譲歩も辞さずという考え方に依拠する。共和党保守派からは蛇蝎の如く嫌われている存在だが、反面で、リベラルはマスコミからは高く評価される。

もとより尖閣諸島問題に関して、尖閣の帰属が中国になろうが、日本であろうが、そのことに米国は関与しないという路線を提示したのはキッシンジャーである。

キッシンジャー元国務長官は2012年10月3日、ワシントンのウッドロー・ウィルソン・センターで次の講演をしている。
「米国は尖閣に介入してこなかったし、これからも介入しない」
この発言のタイミングは米国マスコミのもっぱらの関心事は米大統領選挙でオバマとロムニーが互いに中国を激しく攻撃しているから、米中関係が支離滅裂になるのかとの懸念の拡がりが背景にあった。

キッシンジャーはかくも言った。
「米中関係は揺るぎなく、尖閣密約はない」「米中関係はおたがいに派遣を求めず、平和共存が目的」。
さすがに親中派の大物にして、ニクソン政権下で北京を秘密訪問しただけあり、米国保守派の考え方や議論の立て方とはおおきな距離がある。キッシンジャーは佐藤政権下、日本との沖縄密約の当事者であり、沖縄返還の条件は有事の核持ち込みと繊維交渉のおける妥協だった。
返還された沖縄の管轄権には尖閣諸島が含まれると解釈された。

▼蛇蝎の如く嫌われても。。。

彼の発言以後、ヒラリー国務長官のむき出しの反中国姿勢を無視して、カート・キャンベル国務次官補が「尖閣帰属に米国は介入しない」という外交路線を追認して公式の米国の見解とした。

以後、米国の高官や外交専門家、軍人が来日するごとに、筆者も何回かシンポジウムなどに出席したが、判で押したように、同じことの繰り返し発言があった。ヒラリークリントンから国務省はジョンケリーという面妖なリベラル議員に交代し、米国の対中国姿勢はますます妥協的となった。

そして、米中首脳会談の直前に「対中外交の見直し、基軸転換(ピボット)」を提唱してきた国家安全保証担当補佐官(嘗てのキッシンジャーのポスト)が更迭され、ライス国連大使があたらしく補佐官となった。オバマの対中譲歩路線に反対する人物がホワイトハウスに不在となったのだ。

キッシンジャーは89年の天安門事件で中国が世界に孤立したときも、弟子のスコウクラフト(当時の大統領補佐官)を秘密裏に訪中させたブッシュ大統領の外交顧問役でもあり、その後に自ら訪中して、米中間の関係改善に貢献した。
このため中国からは「88歳のキッシンジャー氏は中国人民の古きよき友人」と高い評価を受けてきた。

 


 
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