先の総選挙は「国防選挙」だった。
尖閣諸島周辺では支那の公船が連日のように徘徊しながら領海侵犯を繰り返し、選挙中には北朝鮮のミサイルが沖縄上空を飛び、同日支那の飛行機が領空侵犯をした。北朝鮮の拉致というテロは軟弱な国防体制のなかで起こされ、また報復もできない有様だ。韓国大統領は竹島を、ロシア大統領は北方領土をそれぞれ訪問したのは、日本は何ら対応しない国と見抜いてのことだ。
選挙では経済や外交の問題を優先して論じていたが、それらは強い国家があればの話だ。

国防ジャーナリスト桜林美佐(さくらばやしみさ)さんの今年を締めくくったブログです。
桜林美佐の新・国防日記 2012年12月31日 を転載

「邯鄲の夢」とは言いますが、自民党が政権交代を果たしてみると、民主党政権の3年という月日がまるで夢だったかのような気持ちさえしてしまいます。

迎えくる新しい年は、新政権に向けられる期待が一層高まりそうです。防衛省でも予算を担当する方々はお正月休み返上。さらに、来年は防衛大綱・中期防の見直しもされるということで、ますます忙しくなることでしょう。

小野寺防衛大臣は、防衛大綱などの再検討にあたり『動的防衛力』というキーワードに触れていました。そもそも、この言葉が生まれた経緯は、政権交代前に発足された「安全保障と防衛力に関する懇談会」(安防懇)の報告書に『動的抑止』として盛り込まれたものです。

そう考えれば、自民党政権となったからには、今一度この『動的抑止』構想に立ち返って議論していく必要があるのかもしれません。

但し、安防懇当時からすでに安全保障環境が変化していること、それも中国の軍事力増強が思った以上に速く大胆であることや、北朝鮮の技術力も想像以上に高いなども加味されてしかるべきでしょう。

また、東日本大震災によって防衛省・自衛隊に残された課題と問題点が大いにあるにも関わらず、それらが検討されないまま(そのような余裕がないまま)現在に至っていることは、非常に問題があります。

補正予算で不足は補われた面もありますが、根本的に自衛隊の組織力を弱めるような施策については軌道修正すべきではないでしょうか。

私としてもかねてより訴え続けていた、防衛予算の増額は実現されそうで、ほっとする反面、その予算をどのように使うかについてはまた難しい課題として横たわります。

新しい装備を買うことは、確かに現在の抑止力を高める効果もあり、政治的なパフォーマンス性もありますが、その前に、削減の圧力の中で弱められた組織の人的な基盤(自己完結能力の低下を招く方針や、様々な士気を落とす政策がなされた)を回復すること、そして国内の防衛生産・技術基盤の維持、さらにこの活性化に向け資源配分することが急務と考えます。

つまり、喫緊の課題である防衛大綱や中期防といった5~10年のものと、「防衛基盤」というもっと長いビジョンとの両輪で考えなければならないのであり、現在の脅威対処だけに集中することは、「対処」にすぎず、「国防」とは言い難いもの。私たちは将来のわが国も守る義務があるのだと思います。

日本を「手出しをさせない」国にするために、議論がなされることを期待ししながら、平成24年を締めくくりたいと思います。

 
 


桜林 美佐 Misa Sakurabayashi
1970年生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作した後、ジャーナリストに。
国防問題などを中心に取材・執筆。
<主な著書>
奇跡の船「宗谷」-昭和を走り続けた海の守り神
海をひらく- 知られざる掃海部隊』
誰も語らなかった防衛産業
日本に自衛隊がいてよかった 自衛隊の東日本大震災

オフィシャルサイト: 桜林美佐
ブログ: 桜林美佐の新・国防日記