鍛冶俊樹の軍事ジャーナル 第75号 を転載

米軍は尖閣を守るか?

自民党総裁選に立候補した5人はいずれも集団的自衛権についての憲法解釈の見直しを主張している。今までの政府解釈は「日本は集団的自衛権を有するが憲法上行使できない」という珍妙な解釈だから見直しは当然だが、もし見直しだけで尖閣が守れると考えているなら大間違いである。

集団的自衛権は対等な同盟関係における共同防衛を意味する。日米関係でいえば日本が外国と戦争になった場合、米国は日本側に立って参戦する権利と義務を有するが、同時に米国が外国と戦争になった場合は日本は米側に立って参戦する権利と義務を有する。

欧州諸国がアフガニスタン戦争に参戦したのは、米国との同盟関係の義務を果たすべく集団的自衛権を行使したのである。ところが日本はアフガニスタン戦争で集団的自衛権を行使せず参戦しなかった。つまり同盟国としての義務を果たさなかった。
その日本が急に集団的自衛権行使にこだわり始めたのは、中国と戦争になった場合、米国が集団的自衛権を行使して日本側に立って参戦して貰いたいからである。だが日本が同盟国としての義務を果たしていないのに、米国に一方的に参戦を期待するのは虫が良すぎるのではないか。

米国防長官レオン・パネッタが先週急遽訪日し、オスプレイの予定通りの配備を日本に飲ませ、訪中して「米国は対中封じ込めをしない」と約束して中国をなだめ、その足でニュージーランドを訪問した。国防長官のニュージーランド訪問は数十年ぶりである。
実はニュージーランドはアフガニスタンに派兵して10人の戦死者(女性を含む)を出して同盟国としての義務を果たしている。ニュージーランドが米国を守ったのだから次は米国がニュージーランドを守るとレオン・パネッタは確約したであろう。

英字紙によると日中問題についてもパネッタは説明したという。どんな説明をしたかは明らかではないが大体想像はつく。「ニュージーランドは米国を守ったが日本は米国を守らなかった。だから米国はニュージーランドを守る義務はあるが日本を守る義務はない。」

オーストラリア・ニュージーランドを始めとする南太平洋地域も中国の海洋進出に怯え始めている。昨年米国が公表したアジア太平洋戦略は南太平洋・インド洋の海洋交通路を確保する戦略であり、もはや東アジアは眼中にない。

今、中国から守ってほしいばかりに集団的自衛権の行使を宣言すれば、米国は「それではまず義務を果たせ」と陸上自衛隊のアフガニスタン派遣を命ずるだろう。米軍の一部は既に撤収したが、アフガニスタンの治安はますます悪化している。欧州軍も撤収を決めているから、あらたに派兵できるのは日本ぐらいしかない。
欧米軍の穴埋めをするとなれば5万人程度の派兵が必要となる。中国から守って貰う為には止む得ぬ出兵であろうが、戦争遂行できる法的基盤と後方支援体制と精神的基盤を整えておかなくては全滅の悲劇は免れない。

一口にいえば国防体制の確立なしには集団的自衛権も個別的自衛権も行使は不可能なのであり、単なる憲法の口先解釈の変更で安全保障が実現できるなどと思ったら大間違いなのである。

 


「国防の常識」出版記念トークライヴ第3弾

8月10日に角川から拙著「国防の常識」が出版され、同日銀座にて出版記念トークライヴ開催、好評に付き9月1日に再演したが、ご要望にお応えして28日、再々演する。(本書の販売も)

トーク:鍛冶俊樹(かじとしき) 
唄:相馬瑞加(そうまみずか)  相馬 瑞加 | Facebook
ピアノ:CHIKA  Chikaのホームページ

出版記念トークライヴ
日 時 9月28日(金) 19:30開演~21:30
会 場 伽藍(がらん)バー http://www.ghalan.com/
東京都中央区銀座6-4-8曽根ビル地下2階
参加費 5000円(2ドリンク+軽食付き)
申込先 伽藍バーに電話で予約。
電話:03-3289-3600 
営業時間18:00~24:00 日曜は休み
メールでも受付け可:件名を「トーク申し込み」として、お名前と電話番号(できれば携帯の)を明記し
GBE02055@nifty.ne.jp へ送信。
定員20名

 


軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、論文「日本の安全保障の現在と未来」が第1回読売論壇新人賞佳作入選。現在、日経ビジネス・オンライン、日本文化チャンネル桜等、幅広く活動。

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