「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成24(2012)年8月20日 通巻第3728号 を転載

中国各地の「反日」デモ、一部が「尖閣奪還」で暴徒化したが
団派を窮地に陥れる上海派、太子党の思惑が背後に

8月19日、日本の議員有志ほかが尖閣に上陸したことに反発した「反日」デモが短時間で組織された。集合場所へ行ったら横断幕もプラカードも用意されていた。不思議だなぁ。

広東省の深センで千名を超える参加者あり、パトカーを横転、日本料亭が襲撃を受けた。深センは香港の隣町、香港から活動家らが駆けつけることも可能。
広東省の省都・広州では日本領事館前に300名。「日本に宣戦布告せよ」など過激なスローガンが並んだ。しかし同領事館のオフィスは花園ホテルのなかにあるため、デモ隊はホテルの周囲を回って散会した。暴徒化しなかった。

もっとも荒れたのは四川省成都。三千人前後が参加し、市内を数時間もデモ行進し、警官隊と衝突、数人の学生が逮捕された模様。

以下、「反日デモ」が行われたと報道された都市は以下の通り。
長沙(湖南省)
重慶(数名から数十、日本領事館が入るビル前の公園)
杭州(数百名、寿司屋が襲われた)
このあたり、活動家がいるようで、常連、パターン化している。

新華社は次の都市でデモが行われたと伝えたが人数は不明。
瀋陽(遼寧省。日本領事館がある)
ハルピン(黒竜江省)
青島(山東省)
これらはいずれも日本と縁が深い都市である。

在米華字紙は以下を加えているが、これらも日本企業の進出が目立つ場所である。
寧波(浙江省)
済南(山東省)
温洲(浙江省)
武漢(湖北省)
鄭州(河南省)
烟台(山東省)

ただし18日にデモがあった北京、上海、西安では19日に小規模なデモが行われただけだった。18日にしても北京の日本大使館前に十名程度、上海は領事館前に数十、近くの味千ラーメンは19日に営業をとりやめた。
西安では数百の規模と伝えられたが、「日本人を皆殺しにしろ」というスローガンがあった。

だがいずれにしても反日をスローガンのデモは成都の三千、深センで二千名だった。肝腎の香港では反日デモは形式的なものだった。
7月1日の香港返還15周年を記念して香港を訪問した胡錦涛を40万人のデモが「歓迎」した。

七月から八月にかけて、四川省什方や、江蘇省南通でおきたデモは数万規模だった。農村の反政府デモは、最近、村ごと数万名の規模が常識であり、十数名のデモは報道する価値もないのではないか。

▼尖閣は口実に過ぎず、デモの背景には権力闘争

こうやって一覧してみると気がつくことがある。
もっとも激しい反日デモは広東省で起きた。香港に近いため、活動家の連帯があった?
穿った見方を言えば、広東省は団派のチャンピオン・王洋が治める。深センは王洋の一の子分が統括する大都会で香港より人口が多い。王洋は北戴河会議で、どうやら次期政治局常務委員にはいった模様と噂されている。
そして華字紙の一部は「反日」は表向きでデモ参加者のなかには「反共産党」を訴える人たちが混在していたと伝えている。

胡錦涛政権は安定穏健路線で日本とはコトを荒立てたくないが、過去の反日デモは、いずれも上海派の強い地域で人為的演出がされた。今度も、団派の影響力の強いとされる地域(湖南省、吉林省、安徽省など)では、広東省をのぞいて大規模な反日デモは組織化されていない。

団派を窮地に陥れるために何かが背後に動いた。党大会直前に、胡錦涛政権が困惑する事態が出現すれば、笑う派閥は何処か?団派を恨む上海派、とりわけ江沢民の子分たちである。

反日運動は「尖閣」が口実だが、その背後にはどろどろした権力闘争があり、香港の活動家らは、おおがかりな陰謀の手のひらの上で踊らされた哀れなピエロである。

 
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