「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成24(2012)年7月12日 通巻第3701号 を転載

対日タカ派軍人、羅援(少将)がまた吠えて
軍の内部も次期主導権をめぐる熾烈な権力闘争が起きている

いまの中国の政治状況は、経済の陥没とおなじく「それどころではない」のだ。尖閣諸島を巡る強硬発言は軍内の主導権争いが絡み、「言うだけ番長」の趣がある。

北京での権力闘争は絶頂、党大会前の警備強化のため、6月30日から7月31日までに、全国の行政単位の「公安局長」、1400人が北京に呼び出され、訓令をうける。公安局長は各地で、党委員会政法委員会トップの兼務から大量に排除されている。

国内騒擾はおさまらず、毎日平均で500件の暴動、ストライキ、座り込み、武力衝突が報告されており、とくに先月末以来の四川省での化学工場プロジェクト阻止の暴動に対して武力鎮圧で応じないという支配者側の路線変化が浮き彫りになってきた。

対外的には南シナ海の島嶼をめぐる各国との紛争が泥沼化し、中国の評判はASEAN各国でも最低のレベルになった。
とくにフィリピンと二ケ月も軍艦のにらみ合いが続いたが、中国は武力衝突を避けた。その一方で中国海軍海南島軍管区では、いま大幅な人事異動とシステムの変更が進んでいる(多維新聞網、7月11日)。

薄煕来事件直後から、中国の中南海・奥の院で繰り広げられている権力闘争は、第一に団派vs上海派の対立という基本のスキームのなかで、両派は太子党を分断し、片っ端から有力者を仲間に加えつつ、第二に如何にして軍の支援を確保してゆくかが、その熾烈な闘争の中軸にある。

軍はハイテク官僚が我が世の春を決め込み、嘗ての革命戦争の理論は遠景へ押しやられてはいるが、王立軍亡命未遂事件で発覚した成都軍管区における不穏な動きと周永康――薄煕来の「政治同盟」が軍の地方ボスを巻き込もうとしていた事実だった。

▼軍の動向にも政治的思惑がねちっこく絡み付いている

胡錦涛は直後から軍トップに各軍管区を早急に視察し、中央への忠誠を訓示して歩かせる。徐厚才、郭伯雄、陳丙徳らが軍管区をまわって、一応、軍の安定をみた。胡錦涛はこのプロセスのなかで、軍における江沢民の影響力が弱まったことも同時に確認した。次期軍事委員会の上層部は団派で固めなければならないから、つぎに行うべきは軍高官から上海派と繋がる軍人の駆逐である。
この安定的状況を確認した後で、梁光烈国防相を団長とした訪米団がアメリカへ赴いたが、郭伯雄の訪日は見送られた。

対日タカ派の軍人が、こういう状況では「ガス抜き」行為をやらかす。常にそうである。
劉源、熊光偕、劉亜州、朱成虎らタカ派で反日軍人等は過激な発言を繰り出して、日本を緊張させるとともに、国内にあって或る政治目的を達成する。社会擾乱のすり替えのために対外矛盾を道具化するわけだ。

今回の羅援少将の発言は、彼の過去の発言の延長線上にあるもので、「尖閣諸島は中国領である」「南沙、西沙、中沙も合併して「三沙市」となったのだから軍管区分区を設けるのは当然であり、尖閣諸島海域では軍事演習をやれ」と吠えた。

羅援(少将)は中国軍事科学学会の副秘書長で「釣魚島の主権が中国に属することを、行動で示すべきだ」と人民日報系の『環球時報』(9日付け)に寄稿した。軍の存在誇示、対日タカ派発言で軍の求心力を強化し、政治局に対しては牽制球を投げるという三重の効果を計算していることが分かる。

 
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