田母神俊雄公式ブログ「志は高く 熱く燃える」 を転載

F35の導入は日本の自立を阻害する

航空自衛隊が、老朽化したF4ファントム戦闘機の後継機として米国を中心とする9カ国国際共同開発のF35を導入することが昨年12月に決定された。F35は第5世代の戦闘機といわれ、レーダーに映りにくいステルス性能を持ち、また周辺を飛ぶ戦闘機や地上のレーダーサイト、ペトリオットミサイルシステム、海上の護衛艦などとの瞬時情報交換能力に優れ、ネットワークを駆使した組織戦闘能力の向上に寄与できる戦闘機であり、現在の世界の戦闘機の中では、戦闘機としての性能は最高に高いと言うことができる

戦闘機の性能を決めるのは、かつては速度、上昇性能、旋回性能などの飛行性能であった。しかし人間が搭乗している限りその性能を現在以上に高めることは出来ず、すでに搭載武器システムの能力こそが戦闘機の性能を決めることになっている。さらに近年ではコンピューターネットワークの発達により搭載武器の能力発揮は、空中におけるリアルタイムの情報収集能力に支えられており、ネットワークを最大活用できる戦闘機こそが最高性能の戦闘機と言えるのだ。そういう意味で戦闘機の性能に着目した場合、F35の機種決定は極めて妥当なものと言えるであろう。

しかし、戦闘機の機種選定が戦闘機の性能だけに着目して行われると別の問題を引き起こすことになる。自衛隊存立の目的は国家防衛であるが、最高性能のF35の機種決定は、長期的に我が国の守りを弱体化する恐れがあるのだ。我が国はこれまでライセンス国産という方式で戦闘機を国内で造ってきた。ライセンス国産とはアメリカから戦闘機の図面を買って来て日本の国内産業が戦闘機を造るのである。具体的には三菱重工業が中心となり、その他の国内航空機製造会社が協力して造り上げるのである。ライセンス国産は出来上がった戦闘機を買ってくるのに比べると経費は二倍ぐらい高いものにつく。国内に新たに戦闘機製造施設を造る必要があるからである。しかし、やがて国産戦闘機を造ることを目指し、カネをかけても我が国は、ライセンス国産によって戦闘機製造能力を蓄積してきたのである。そして1975年に戦後初めて国産戦闘機F1の初飛行に成功したのである。

ところがその後、我が国はアメリカの圧力もあり戦闘機の国産からは遠ざかる道を選択し始めるのである。1980年代にF1後継機のF2の国内開発が始まろうとしたとき、アメリカは当時経済発展を続ける日本に戦闘機を開発させまいとして猛烈な圧力をかけてきた。当時、私は空幕防衛課に勤務しており、直接の日米交渉の担当ではなかったが、日米交渉の現場の声も聞こえるところにいた。アメリカは日本に対しF2開発計画の説明を求め、「我々アメリカの経験によればそんな少ない経費で戦闘機の開発など出来るわけがない」というのぼせ上がった言い方をしていたと聞いた。航空自衛隊の開発関係者は余計なお世話だと言ったそうだ。しかし、結局F2はアメリカ派の代表である中曽根総理の鶴の一声で、アメリカのF16を改造する日米共同開発に決定された。これがライセンス国産の終焉であり、戦闘機国産の挫折の始まりである。

そして今回のF35の機種決定である。F35は国際共同開発の戦闘機であり、すでに各国の製造分担は決まっている。日本がF35を使うことを決定したとしても、日本は一体どの部分を製造させてもらえるのだろうか。恐らくライセンス国産は無理なのではないか。これまでF2で辛うじて戦闘機製造・開発技術をつないできたが、我が国ではすでにF2の生産も昨年終了し、戦闘機を造っていない。戦闘機製造が一旦中断することになれば、製造技術も開発技術も失われていくことになる。

経営も立ち行かなくなって、やがて三菱重工などの戦闘機製造部門がアメリカのロッキード・マーチン社などに買収される恐れもある。アメリカの対日戦略の基本は、日本の軍事的自立を阻み経済植民地化を図ろうとするものである。しかしこの期に及んでも、防衛省も国内軍需産業を守るために動こうとしない。国内軍需産業を守り、自衛隊の主要装備品である戦闘機などの国内開発を追求しなければ国家の自立は出来ないのである。軍事的に自立しなければ国家の自立はあり得ない。戦闘機などは製造国の技術支援がなければ動かない。アメリカ製造の戦闘機などを使っていれば軍事力の行使もアメリカに握られることになる。ソフトウェアの操作をされただけで戦闘機などの戦力発揮が出来なくなるのである。

アメリカはしたたかである。F22という第5世代の戦闘機を単独開発しすでに就役させながら、一方で同じ第5世代の戦闘機F35を国際共同開発しているのである。恐らくF2の日米共同開発でアメリカは日本のフェーズドアレイレーダーや翼の炭素繊維を使った一体成形技術などを見て、外国の優れた技術をアメリカに導入することも必要と認識し、国際共同開発を進めている。国際共同開発で外国の技術レベルを押さえながら、またF35を使う各国の戦闘機の戦力発揮にはアメリカの技術協力が必要だという形を作っている。そしてF35の共同開発で得られた戦闘機の技術を全て踏まえた上で、F22は他国には輸出しないアメリカのみが持つ世界最高の戦闘機として維持するわけである。もちろん経費節約も目論んでいるであ
ろう。何というしたたかさであろう。

今回の機種選定では、私はユーロファイターにするのが我が国の自立にとって最も良いと考えていた。ユーロファイターも国際共同開発であるがF35に比べれば共同開発参加国も少ないし、イギリスもどうしても日本に売りたいので条件交渉がやり易い。現に日本の会社が製造、修理出来ないというブラックボックスは作らないというところまでイギリスは譲歩していたそうだ。もちろんイギリスもしたたかであり油断は出来ないが、ユーロファイターであれば、我が国の戦力発揮がアメリカに握られているほどにはイギリスに握られることはなかったであろう。ユーロファイターを導入すれば、我が国のアメリカ一辺倒も少しは緩和され対米交渉能力も向上したのではないか。また我が国とヨーロッパとの関係も努力などしなくても、強化されることになったであろうと思う。

しかしF35の機種決定で我が国の国の守りのアメリカ依存は強化されることになってしまった。国の守りを更にアメリカに依存しては国家の自立はあり得ない。自立から遠ざかるような政策は採用すべきではない。戦闘機の機種選定は単に出来るだけ性能のいいものを選ぶということではなく、将来の国の守りも視野に入れた大局的な観点から行われることが必要であると思う。

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